『フルメタル・パニック!Family』を味わい尽くせ! 「フルメタ」シリーズ再読のススメ

「フルメタ」シリーズ再読のススメ

 賀東招二の「フルメタル・パニック!」シリーズが帰って来た。傭兵の相良宗介が千鳥かなめを守って戦い、世界を救ったエピソードから20年後が舞台の『フルメタル・パニック! Family』(ファンタジア文庫)が新登場。宗介とかなめが結婚し、夏美に安斗という2人の子供と送っている日常に起こるドタバタが描かれ、ミリタリー・アクションとシチュエーション・コメディが融合したシリーズの面白さを、改めて見せてくれている。「フルメタ」シリーズの魅力を振り返って、「Family」シリーズの味わい方を深めよう。

 埼玉県大宮市にある田中一郎の家の隣に引っ越してきた家族がいた。その中にいた眼鏡をかけた美少女が翌朝、一郎の通っている高校に転入してきた。ボーイ・ミーツ・ガールのドラマが始まるのか? そんな予感も、小野寺夏美と名乗った美少女が「ひと通りのカキは扱えます」と言ったり、好きなアーティストを聞かれて自信たっぷりに「五木ひろしとSMAPです」と言ったりしたことで、妙な方向へとずれていく。

 会ったばかりの一郎をいきなり家族の食事に招いた上に、写真を撮ろうとした一郎に父親が「変な写真を撮ったら、君を殺さなければならなかった」と言ったことで、一家の奇妙さが増していった果て。一郎に絡んできた先輩を夏美が体術とナイフで撃退した様子がネットで拡散されたことで、一家を何者かが襲撃する事態となって一郎を驚かせる。

 もっとも、父親は手慣れた様子で襲撃者からサブマシンガンを奪い撃ち返し、夏美はせっせとカキならぬ火器を運んで父親をサポートする。夏美の弟の安斗もドローンを投げて襲撃者を牽制。母親はそんな家族の様子をいつものことかといった感じで眺めている。やっぱり奇妙な一家だ。

 この父親の名が相良宗介だと分かって、「フルメタル・パニック!」シリーズを読んできた人は、『フルメタル・パニック!Family』が20年経っても変わらず“軍曹”をやっている宗介の強さと、こちらも変わらない世間とのずれ楽しめるシリーズだと理解する。そして同時に、火器の扱いに長けた夏美や、ハッキングが得意な安斗のことを、宗介とかなめの子供らしいと喜べる。

 振り返れば、1998年10月に刊行されたシリーズ第1作『フルメタル・パニック! 1 戦うボーイ・ミーツ・ガール』も、平穏な日常の中で繰り出される奇妙な言動に笑える状況から幕を開けた。千鳥かなめが通う高校にある日、相良宗介という少年が転入してくる。校門でカバンに入れていたモデルガンらしきものを没収され、転入の挨拶では好きなアーティストを「五木ひろしとSMAP」と言って不思議がられる。

 この後も宗介は、女子ソフトボール部に入部したいと更衣室に飛び込んでかなめに拘束されたり、かなめのマンションに侵入した同級生の風間が盗んだパンティを取り返したものの、自分が犯人だと疑われ金属バットで殴られたりする。実は戦場育ちの傭兵で、日常生活のことをまるで知らなかった宗介が見せる、平穏な日常とかけ離れた言動を楽しめる。そんなシリーズかと思っていたら、修学旅で沖縄へと向かう飛行機ごとかなめが拉致され異国へと連れて行かれる中で、雰囲気がハードでシリアスなものになっていく。

 かなめには何か秘密があって謎の組織に狙われていた。宗介はそんなかなめを守るため、〈ミスリル〉という組織から派遣されて来た傭兵だった。拉致された先で宗介は本来の能力を発揮し、敵の監視を逃れ戦闘を繰り広げ、届けられたロボットで格闘まで行ってかなめを救い出そうとする。コメディの要素が薄まり、アクションとバトルで読ませる展開になっていく。

 長編シリーズ全体でも、巻を重ねるに従って笑わせる場面が少なくなり、世界を揺るがす謎の組織との戦いといた壮大な設定が浮上してくる。物語の中心にかなめが持つある能力があることが見えてきて、それが世界の構造も、歴史さえも変えてしまいかねない凄まじいものだといったSF的な設定も乗って、シリアスなミリタリー・アクションといった雰囲気を色濃くしていく。

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