音楽業界人も役立つ一冊! 兵庫慎司が『17人のエキスパートが語る 音楽業界で食べていく方法』を読む
言うのも恥ずかしいが、たとえば僕は、いわゆる印税の仕組み、ざっくりとは知っていても、細かいところまではわかっていない。アーティストグッズが売れた時に、それがどんな計算式を経てどれくらいの割合でアーティスト本人に還元されるのか、というのも「ケースバイケースである」ことしか知らなくて、最高でこれくらい、最低でこれくらい、というのもわからない。
逆に、僕と同じ音楽ライターでも、たとえば同じライブを観たあとに「今日ステージに、モニターはもちろんギターアンプもなかったね。完全にラインなんだね」と言ったら、「ラインって何?」と返されたり、フェスの現場で会場のオペレーションに関してブーブー言ってたら、「あ、そうなんだ? 裏しか見てないからわからなかった」と言われて、「同業者でも全然違うんだなあ」と、思ったりすることもある。
という意味で、この本の1章と2章は、書いてあるのは基本的なことだし、すごくつっこんだことまでは触れていないが、基本的なことであるがゆえに「これくらいのことを知っていれば大丈夫ですよ」という、適切なテキストになっているのだ。学生が読んだら、なのはもちろん、僕みたいな偏っていて不勉強な音楽業界人が読んでも、である。
音源制作や販売や宣伝、マネージメント、ライブまわりから、ウェブやテレビ等のメディアまわりに至るまで、全網羅的に把握しているのは、それらの全部に関わっているソニー・ミュージックやスペースシャワーやエイベックスみたいな大きな会社の中で、あちこちの部署を異動してそれぞれの仕事をやってきた人ぐらいじゃないか、と思う。
そうだ。この筆者のような人だ、ということである。そのような人は、過去も現在もソニー・ミュージックみたいな会社には何人もいただろうが、その中でこうして本を書ける立場にいて、本を書ける状況にあって、本を書ける筆力のある人、というと、極めて限られると思う。
要は、書いてくれてよかった、という話です。他の著書も読みたい、この人がやってきた仕事のことをもっと知りたいので。という気持ちになっている、今。
■書籍情報
『17人のエキスパートが語る 音楽業界で食べていく方法』
著者:関根直樹
価格:1980円
発売日:2023年11月17日
出版社:リットーミュージック