ポテトチップスの湖池屋、ヒット商品連発の秘訣とは? 佐藤章社長が明かす、ブランディングの極意

湖池屋を再生させたブランディング戦略
佐藤章『湖池屋の流儀 老舗を再生させたブランディング戦略』(中央公論新社)

 ポテトチップスの老舗・湖池屋代表取締役社長である佐藤章氏が『湖池屋の流儀 老舗を再生させたブランディング戦略』(中央公論新社)を2023年12月20日に刊行した。

 佐藤氏は1982年にキリンビールに入社し、97年よりキリンビバレッジ商品企画部に出向。「FIRE」「生茶」「聞茶」「アミノサプリ」などの誰もが知る大ヒット商品をいくつも手がけ、2014年にはキリンビバレッジ社長に就任した。2016年に湖池屋に移り、新社長として社名やロゴを変更するリブランディングを実施。そこで売り出した新商品「湖池屋プライドポテト」は、安売り競争下での高価格設定、自立式のパッケージデザインなど、さまざまな革新的な試みを行った。年間20億円でヒットとされるスナック市場において、初年度には40億円もの売り上げを叩きだしたという。

 本書では新生・湖池屋を率いる佐藤氏が、同社のフィロソフィーから独自のマーケット論、経営戦略までを語り尽くしている。人々を魅了する大ヒット商品を生み出す秘訣は何なのか。佐藤氏に話を聞いた。(篠原諄也)

フロンティアスピリッツを呼び覚ます

ーーキリンビバレッジから移られた当初、湖池屋にはどのような印象を抱きましたか。

佐藤:僕はずっと飲料やアルコールに関わってきたので、いつか食べ物にチャレンジしたいという気持ちはありました。飲み物から見ると、食べ物は主役です。湖池屋に入社が決まって「よし、やってやろう」と意気込んでいましたが、日本で最初にポテトチップスを量産化した会社であるにもかかわらず、どこか元気がないようにも見えた。どうにかこのピンチを脱しないといけないと、気が引き締まるような思いでした。

ーーどのようなことが必要だと思いましたか。

佐藤:まずは歴史ある湖池屋の原点に立ち返ることです。日本で最初にポテトチップスの量産化に成功し、ロングセラーブランドをたくさん持っていること。それは絶対に活かすべきポイントで、強みになる。日本中の皆さんにそれをどう思い出してもらうのかを考えました。

 そして、創業者の精神であるフロンティアスピリッツを呼び覚ますこと。2012年、13年と2年連続で赤字に陥る中、社員たちが正面から立ち向かうのではなく、逃げを打っているように僕には見えました。我々の立ち位置は一番手を追いかけるフォロワーではなく、チャレンジャーでなければいけないのです。

ーー最初に社名を当時の「フレンテ」から創業時の「湖池屋」に変えたそうですね。

佐藤:「フレンテ」に込められた思いは理解しつつも、今のお客さんには伝わっていない。日本中の誰もが知っている湖池屋という屋号を、もう一度名乗り直さないと話にならないと痛切に思いました。小池孝・現会長に持ち寄ったら、驚かれましたが同意してくれた。そこで意思のフォーカスがバチっと合ったように思いました。

 まず、見た瞬間にすぐ湖池屋だとわかるシンボリックなロゴが必要だと思いました。僕は多摩美術大学で客員教授をやっていましたが、その時の教え子で新進気鋭のデザイナー・川腰和徳さんに依頼しました。後にクリエイター・オブ・ザ・イヤー(2019年)を受賞するほど活躍しています。川腰さんと「ああでもない、こうでもない」と壁打ちをしながら、ロゴのデザインを考えたのです。そういう風に社外でも仲間を作っていくのが、僕のチーム作りの基本です。ロゴにはおめでたい印である亀甲マークの六角形の中に「湖」と描いてもらい、親しみ、安心、楽しさ、本格、健康、社会貢献という6つの思いを込めました。

「湖池屋プライドポテト」の誕生

ーー最初に手がけた「湖池屋プライドポテト」の生まれた背景を教えてください。ポテトチップスの値段は100円が常識化していた中で、プレミアム志向の150円に設定し、大ヒット商品となりました。

佐藤:今の時代の人々の気分を捉えた上で、湖池屋の伝統を生かした商品を作っていくべきだと考えました。奥行きが深く間口が広いことを同時に実現してしまう商品が必須でした。

 「カラムーチョ」や「ドンタコス」、「ポリンキー」といった既存の人気商品のリブランディングをするのは真っ当な戦略です。でも、それだけでは足りません。安売りによってシェアを奪われた会社が逆に押し返すためには、どうしても付加価値型の商品、つまりプレミアムを主張できる新しいブランドが必要だったのです。もちろん新商品はリスクが高い。しかし当時、3つほど慎重に考えた案の中でも、一番リスクの高いものを選びました。

 それが湖池屋のプライドを体現できるユニークネスを持つ「湖池屋プライドポテト」でした。国産じゃがいもを100%で、皮のむき方、洗い方、厚さ、油の質、揚げ方のすべてにおいて妥協しないポテトチップス。ひとつの料理と言ってもいいほどの思いと情熱を注ぎ込みました。「フライドポテトのダジャレですか」なんて言われて「半分はそうです」と言っていたんですが、ちょっとクスッと笑わせるような要素も盛り込みました。

 パッケージデザインはよくあるピロー型でなく、底辺が平らで自立式のスタンディング容器にしました。「湖池屋が本当の意味で自立していけるように」という思いも込めました。また、名前は小さな字にして、おしゃれなパッケージにすることで、いままでのスナックにはない新しい時代が来ることを予感させるようにしました。

 発売前にお客さんにグループインタビューで意見を聞くと、これまでにない革新的な要素があったためか、評価は二極化したのですが、若い女性やこだわりの強いオタク気質の人たちからは高評価をいただいた。順目ではなく、あえて逆目をいき、刺激的な商品にしないといけない。そしてどうやってブレイクさせるかを必死に考えたわけです。

ーーCMも大きな話題となっていました。

佐藤:ある時、テレビ番組で当時、アマチュアだった女子高生が歌っているのをたまたま見ました。僕はその歌唱力に驚き、ぜひCMの主題歌を歌ってもらおうと思ったのです。CMでは「100% 日本産のイモを使ってるの」と熱唱してもらいました。最初は高校生や大学生といった若い女性から「あの高校生のポテトチップス?」「センスいいよね」と火がついて伝播していきました。これも刺激作りです。伝統やプライドとは全く違うエレメントを掛け算していくことになったのです。

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