『ちいかわ』島編で話題の「不老不死」問題 名作漫画、高橋留美子『人魚』市川春子『宝石の国』から考察

『ちいかわ』「不老不死」名作漫画から考察

  フジテレビ系列「めざましテレビ」にてアニメが放送され、老若男女から多くの支持を受けている『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ』(講談社)。登場するキャラクターは二等身でとても愛らしいが、その魅力は決して“可愛い”だけで収まりきるものではない。

  ちいかわの作者であるナガノ氏がX(旧Twitter)で連載している原作漫画には、死を匂わせる描写が度々ある。特に最近完結を迎えた、とある島で繰り広げられる人魚伝説を題材としたストーリー(以下「島編」)は、読者に強い衝撃を与えるものだった。今回は「島編」で焦点が当てられた不老不死について、これまでの名作漫画と照らし合わせながらその残酷さや無常さについて考えてみたい。

■高橋留美子『人魚』シリーズで描かれる長い人生の孤独と苦しみ

 「島編」で描かれた「人魚の肉を食らうことで不老不死となる」という伝説。同様のテーマを扱った漫画作品で真っ先に浮かぶのは高橋留美子の『人魚の森』(小学館/以下同)を代表とする人魚シリーズだ。人魚の肉を食べ不老不死の身となった主人公・湧太(ゆうた)と、同じく不老不死の真魚(まな)が各地各時代で人魚を巡る事件に巻き込まれる話が描かれている。

 『人魚』シリーズでしばしば語られるのは不老不死であることの苦しみである。「不老不死」は一見魅力的に思えるが、長すぎる人生ではただ「生きる」ことしかできない。不死ではない者と深い繋がりを持ち続けることや、ともに生活を送ることは不可能であり、誰からも理解されず癒されないまま、永遠に孤独を生きていくことになるのである。

  その孤独の冷たさを強く感じさせるのが人魚シリーズ二巻に収録されている『人魚の傷』だ。この話には“奥様”と呼ばれる女性と、真人という少年、そして真人の面倒を見るお手伝いさんの雪枝という人物が登場する。湧太と真魚は、奥様が人魚の肉を食べて不老不死なのではないかと疑うが、実は真人の方が800年近く生き続けている不老不死の肉体の持ち主だった。

  人魚の肉には危険が伴い、体質に合わなかった人間は化け物となる。それにも関わらず次々と肉を与え、何人もの女性の命を危険にさらす真人。彼を問い詰める湧太に対し、真人は「おれたちみたいなのがいちいち人を好きになってちゃ、たまらねぇじゃねえか…」と表情一つ変えずに呟く。

  子供の姿で生き続けるため都合の良いように人間を利用しようとする真人の利己的な気持ちと、それでも共に生き孤独を少しの間でも癒してくれた女性たちへの愛情に似た何かが渦巻いている。孤独にもがき、苦しみの果てに出た言葉が「悲しい」でも「辛い」でもなく「たまらねぇじゃねえか…」なのだ。

  そして雪枝だけでなく奥様もひっそりと亡くなったことを確認した真人は、静かに涙を拭って再び永遠の孤独に身を投じるのである。

 「島編」に登場する人魚・セイレーンもその永遠の孤独の苦しみは認識しており、「なんかずっと暗いとこで動けなくして“永遠”を味わってもらう」ことが復讐であると語っている。セイレーンと仲間たちもまた、仲間を失った悲しみを永遠に抱えて生きていくことが運命づけられているのだ。

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