『すべての恋が終わるとしても』など“バズる本”で注目! スターツ出版、急伸の背景
スターツ出版が元気だ。11月9日に発表した2023年12月期第3四半期決算では、売上高が累計で60億5300万円となって前年同期比23.5%増と大きく伸長。これを受けて通期の売上高を80億円から82億円に上方修正し、営業利益も20億円から22億円と10%積み増した。3ヶ月前の8月8日に売上高予想を78億円から80億円へと5億円上方修正したばかりで、さらに2億円を上積みする好調ぶりは、出版部門でベストセラーや話題作が相次いでいることが背景にある。
”30秒で泣ける”。そんな触れ込みで話題となっている本が、スターツ出版から出ている冬野夜空『すべての恋が終わるとしても 140字の恋の話』と『すべての恋が終わるとしても 140字のさよならの話』のシリーズだ。Twitter(現X)で発表されていた140字の小説をまとめたもので、TikTokで紹介されて口コミで評判となり、品切れからの重版が相次いでベストセラーとなった。
スターツ出版の2023年12月期第3四半期決算短信によれば、「単行本『すべての恋が終わるとしても』シリーズが、動画系SNSで話題になったことをきっかけに累計発行部数を20万部(2023年10月末現在:25万部)まで伸ばすヒット作となっております」とのこと。8月9日に発表された2023年12月期第2四半期決算短信ではまったく触れられていなかっただけに、この間の急伸ぶりがどれだけすさまじかったかが分かるだろう。
第3四半期決算が9月30日までとなっていて、そこで20万部だった累計発行部数が10月末には25万部ということは、1ヶ月で5万部を積み上げたということか。140字という制約の中で恋の始まりと終わりを描いた作品は読みやすく、そして心に刺さりやすく1作読めば次も、また次もといった感じに読み進んで、そしてまた読み返してしみ出してくる感動を味わいたくなる。
そんなストーリーをまとめた単行本の表紙が、涙を浮かべた少女の大きな顔の絵で書店でも印象に残りやすい。作品の良さと装丁の素晴らしさを読者が受け取り、SNSで広げていった結果がシリーズをベストセラーへと押し上げた。それが決算の数字に影響を与えたと言えるだろう。大好評を受けてシリーズは第3弾の刊行も決定。これが同じくらいのヒットとなれば、スターツ出版の売り上げもさらに大きなものとなりそうだ。
スターツ出版にはまた、12月8日に汐見夏衛『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』が原作となった映画の公開も控えていていることも、業績の見通しを明るいものにしていそう。映画の方はすでに劇場で予告編が流されていて、福原遥が演じる現代人の少女が、1945年の日本にタイムスリップしてそこで特攻隊員の青年と出会うストーリーが、悲恋を予想させて関心を誘っている。
原作は、スターツ出版が運営している小説投稿サイト「野いちご」にケータイ小説として連載されたもので、感動を呼ぶ作品としてシリーズ累計70万部のベストセラーとなっている。第3四半期決算短信には、「本年映画化される小説『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』等が業績に寄与しております」と触れられていて、相次ぐ業績の上方修正にこの作品が貢献していることがうかがえる。
映画の公開はこの人気をさらに盛り上げそうだが、ここに来て特攻隊員の佐久間彰を演じる水上恒司が、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』でヒロインの鈴子にとって最愛の人となる村山愛助を演じていることも、話題性をもう何段か高いものにしていきそう。『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』と同じライト文芸レーベル「スターツ出版文庫」からは、7月7日公開の映画『交換ウソ日記』の原作も刊行されている。若い層を劇場へと誘う原作をしっかりと抱えて刊行していることも、業績好調の要因になっていると言える。