ライトノベルの人気は本当に衰えたのか? あらゆるジャンルに波及したラノベ的要素を考察

ラノベは本当に衰退した?

 ライトノベルが人気という。日向夏の『薬屋のひとりごと』がTVアニメとなって話題沸騰中。アネコユサギ『盾の勇者の成り上がり』もTVアニメのSeason3が放送開始となってファンを喜ばせ、いのり。による『私の推しは悪役令嬢』のTVアニメも”悪役令嬢もの”の新機軸として評判を呼んでいる。もっとも、ライトノベルは以前に比べて売れてないといった声もある。いったいどちらなのか? その差はライトノベルをどう見るかといった意識の違いにあるようだ。

 11月25日に宝島社から『このライトノベルがすごい!2024』が刊行となる。2023年に話題となったライトノベルを、読者や識者に聞いてランキングにしたもので、文庫部門で衣笠彰梧『ようこそ実力至上主義の教室へ』の連覇はあるか、裕夢『千歳くんはラムネ瓶のなか』が巻き返して3度目の1位を獲得するのか、単行本部門で香月美夜『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~』の4度目の1位はあるか、といった辺りに関心が集まっている。

 ここで重要なのが、『本好きの下剋上』がライトノベルとして"すごい!”と言われていることだ。単行本部門とあるように、『本好きの下剋上』は文庫ではなくB6判として刊行されている。そして、始まった当初の「このラノ!」に単行本部門はなかった。「このライトノベルがすごい!2017」で設定されて、丸山くがね『オーバーロード』が1位となって以降、文庫部門とは別に集計されてランキングが発表されるようになった。

 『オーバーロード』や、この年に5位となった『本好きの下剋上』、8位の伏瀬『転成したらスライムだった件』が突然現れた訳ではない。ライトノベルとされて投票の対象に加えられただけで、「このラノ!」側が対象とし、投票する側もだったらと応じたことで、B6版や四六判の単行本シリーズが”すごい!”ライトノベルの仲間入りを果たした。

 新書サイズの講談社ノベルズから刊行の西尾維新による「戯言シリーズ」が、1位を獲得した年も前にあった。当時の人気ぶりと、そしてスニーカー文庫や電撃文庫を読む層との重なり具合から、大量の得票があったのだろう。中央公論新社〈C★NOVELSファンタジア〉から刊行されていた、茅田砂胡『デルフィニア戦記』も得票数が多ければ、ランキングに名を連ねたかもしれない。

 ただ、一般にライトノベルと見なされていた電撃、スニーカー、ファンタジアといったレーベルの作品がまだ強く、「戯言シリーズ」だけが名を連ねた形になった。そして、「このラノ!」が刊行を重ねていく中で対象となるレーベルにはある程度の枠が作られて、新書版ノベズルが名を連ねることはなくなった。レーベルもスニーカーや電撃、ファンタジア、スーパーダッシュといったあたりに限られるといった雰囲気が醸成された。

 今となっては、『僕の魔剣が、うるさい件について』でスニーカー文庫からデビューした宮澤伊織が、ハヤカワ文庫JAから刊行している「裏世界ピクニック」シリーズは、ラノベ出身者が書いてはいても、「このラノ!」に推されることはないだろう。一方で、文庫ではなくても読者層が重なる単行本は対象に加えられた。この2軸をライトノベルとみなす雰囲気が、今の「このラノ!」周辺にはあるといった感じだ。

 そして、文庫と単行本の2軸で走るライトノベルの市場が活況かと言えば、コミカライズやアニメ化の勢いを見ればおそらく活況なのだろう。大森藤ノ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』の10周年を記念したイベントは、昼夜の回がいずれも満席となり、TVアニメ第5期の制作決定が発表されると歓声が起こった。京都アニメーションが開くイベントに、谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』のTVアニメに登場したSOS団が結集すると分かった時、チケットの争奪戦が起こった。

 ただ、読者がどこまでついてきているのかといったところで、以前ほど若い人たちにライトノベルは読まれていないのではないかといった声もあって、それがカテゴリーの停滞なり衰退といった言説を誘っている。講談社の青い鳥文庫や、KADOKAWAの角川つばさ文庫が中学生までの読者を取り込み、大学生から20代、30代はライトノベルのレーベルから分離するように作られたメディアワークス文庫、富士見L文庫、集英社オレンジ文庫といったレーベルの作品を手に取って、文庫のライトノベルは読者層が狭く薄くなっているのではといった推測も出ている。

 ライトノベルの熱烈なファンはいる。「涼宮ハルヒ」シリーズの新刊『涼宮ハルヒの劇場』が制作中と発表され、シリーズとしては11年ぶりの新刊となる高橋弥七郎『灼眼のシャナSⅣ』が11月10日発売となって沸き立つ状況に、古手の読者が残っていることがうかがえるが、そうした”古典”を若い層が新たに読んでいるかというと、判断に迷うところがある。

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