ライトノベルの人気は本当に衰えたのか? あらゆるジャンルに波及したラノベ的要素を考察
とはいえ、高校生が主人公の佐伯さん『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』や「よう実」シリーズが、数シーズンに渡ってアニメ化される状況に、それらを受け止める読者層がいることもうかがえる。そうしたコアはしっかりと確保しつつ、”卒業生”を取り込むメディアワークス文庫などのレーベルがあり、小学館文庫の「キャラブン」や二見書房の二見サラ文庫、一二三書房の一二三文庫などネットで活躍していた人たちや、ライトノベルの新人賞などから出た人を起用する文庫レーベルなどがあって、コミック調のキャッチーな表紙絵や、泣けるストーリーで読者を得ている。
角川文庫の中にも、小説投稿サイトのカクヨムに掲載され、第8回角川文庫キャラクター小説大賞《奨励賞》を受賞した紙屋ねこ『後宮の宵に月華は輝く 琥珀国墨夜伝』や、魔法のiらんど大賞の2022年小説大賞〈文芸総合部門 部門賞〉を獲得した橘しづき『ただいま憑かれています。』といった、ネット発の才能が名を連ねて、ライトノベルを読んでいたような読者を誘っている。
これを、ライトノベルが市場を奪われたと見るか、ライトノベルが市場を広げたと見るかは、「ライトノベル」をどう捉えるかによって変わってくる。ジャンルとしてのSFが浸透と拡散の時代を経て、あらゆる作品にSF的な着想が見られるようになった状況を、「すべてがSFになった」と言ってかまわないのだとしたら、今は「すべてがライトノベルになった」と言ってしまえるのかもしれない。児童文学でありながら、カバー絵や設定にライトノベル的な雰囲気が見て取れるジュニア文庫も含めて。
とはいえ、ジュニア文庫もキャラクター小説も、それぞれのカテゴリーで読者を得ようと日々努力を続けている。そうしたカテゴリーを支え伸ばしているという自負もあって、むしろ読者をライトノベルに送り出していると考えているかもしれない。だからここは、レッテルを張り合うような争いではなく、楽しく読めて気持ちよくなれたり、見知らぬ世界に触れられたりするエンターテインメント小説を、ビジュアルも含めて堪能できる読書体験が大隆盛を迎えていると考えたい。
どこから入ろうと誰が手に取ろうと、本は読まれてこそなのだから。