『盾の勇者の成り上がり』歪んだ主人公・岩谷尚文はなぜ支持された? 『異世界かるてっと』メンバーと比較検証

『盾の勇者の成り上がり』支持されたワケ

 KADOKAWA系の作品で、異世界に転移・転生した主人公たちが同じ学園に集うテレビアニメ『異世界かるてっと』。その5番目の転移・転生者として登場したのが、アネコユサギ原作の『盾の勇者の成り上がり』に登場する岩谷尚文だ。10月6日からは第3期 (Season3)となるテレビアニメがスタートし、他の異世界で宿敵のキョウを倒して、元の異世界に戻った尚文たちの新たな戦いが幕を開けた。"かるてっと"に負けていない『盾の勇者の成り上がり』の面白さ、そして尚文の魅力とは?

 捻れている。歪んでいる。『盾の勇者の成り上がり』シリーズを小説で読んだり、アニメで見たりした人には主人公でありながら、そして勇者でありながら岩谷尚文のことを嫌な奴だと思ってしまう時が少なからずある。“かるてっと”の一角を占める暁なつめ『この素晴らしい世界に祝福を!』で主人公を張るカズマも確かにクズだが、周りにいるアクアもめぐみんもダクネスも揃ってポンコツで、カズマのクズっぷりが目立たない。

 尚文は違う。異世界における四聖勇者のひとりとして召喚された立派な存在だったが、剣の勇者や弓の勇者、槍の勇者ほど歓待されず、騙され冤罪をかけられた挙げ句に人間不信に陥って、奴隷の少女を買って主従の関係にして旅に出る。いたいけな少女が虐げられている状況に我慢がならないと、すべて買い取って解放してあげるような勇者らしいことはしない。

 自分を裏切ったり追い落とそうとしたりした者たちを、「ヴィッチ」や「クズ」といった蔑称で呼び続ける執念深さも、公明正大な勇者のイメージからはほど遠い。“かるてっと”の一角を占める丸山くがね『オーバーロード』のアインズ・ウール・ゴウンも、異世界に来て人間を大虐殺する非道を見せるが、それは勇者ではなく骸骨姿の大魔法使いとなったから。人間であっても味方になったものには寛大で、その意味ではサッパリしている。

 最初の段階で激しい女性不信に陥ったからなのか、奴隷にした後で幼女から少女へと成長したラフタリアや、買った卵から孵した魔物が変身して幼女になったフィーロとの間で、恋愛関係が生まれることもない。“かるてっと”のうちの長月達平『Re:ゼロから始める異世界生活』で、主人公のナツキ・スバルがエミリアを思い、ラムを労って恐怖に立ち向かうようなカッコ良さを、尚文はなかなか見せてくれない。

 それでも勇者か。それでも主人公か。非難され、忌避されても仕方がない振る舞いを見せ続けながらも尚文が主人公として立ち続け、アニメが第3期まで作られるほどの支持を集め続けているのはなぜなのか。それは、尚文が勇者らしからぬ人間くささにある。世界を変えようとあがく姿に読者なり視聴者が自分を重ね合わせ、惹かれるところがあるからだ。

 いっしょに召喚された剣の勇者や弓の勇者や槍の勇者が傲慢になり、尊大にふるまう姿を羨ましいと思う人もいるかもしれない。せっかくのチャンスなのだから、元の世界では不可能だったことに挑戦したくなる気持ちは分かる。それでも、他人を虐げ自尊心を満足させようとは思えないし、思いたくない。それでも勇者だとおだてられ、持ち上げられる環境が知らず傲慢で尊大な人間にしてしまうかもしれない。これはなかなか怖いことだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる