乾ルカ × けんご『葬式同窓会』対談 「過去を埋葬してもいいし、そこから新しくはじめてもいいんじゃないか」
乾ルカが新刊『葬式同窓会』を発表した。『おまえなんかに会いたくない』『水底のスピカ』に続く“北海道立白麗高校”三部作の完結篇となる本作。クラス担任だった教師の葬儀で再開した、白麗高校3年6組の元クラスメイトたちは、学生時代の思い出話に花を咲かせる。そのなかで、授業中に起きたある出来事をきっかけに、不登校になった級友がいたことを思い出すーー。大人になるとは?そして、過去を乗り越え、生き直すことはできるのか?と読者に問いかける青春群像劇だ。
リアルサウンドブックでは著者の乾ルカと、同シリーズをすべて読んでいるという小説紹介クリエイター・けんごの対談を企画。『葬式同窓会』を軸に、両者のキャリアや“生き直す”ことの意味について聞いた。(森朋之)
群像劇を際立たせる、印象的な登場人物たち
ーー乾ルカさんの新作『葬式同窓会』は、『おまえなんかに会いたくない』『水底のスピカ』に続く“北海道立白麗高校”三部作の完結篇。小説紹介クリエイターとして活動しているけんごさんは、この小説をどう読まれましたか?
けんご:三部作をすべて読みました。まず『おまえなんかに会いたくない』は、スクールカーストという現代的なテーマの小説です。第二弾の『水底のスピカ』は、キラキラした青春小説なのですが、どこかに闇を感じるという印象を受けました。今回の『葬式同窓会』は、乾さんご自身が「生き直しの物語です」とご紹介されています。心にグサグサ突き刺さるような物語だなと思いながら読み進め、最後の最後で「“生き直し”とは、そういうことだったのか」と腑に落ちる感覚がありました。
乾ルカ:ありがとうございます。“生き直しの物語”というテーマは書いているうちに定まってきたんです。私のこれまでの人生は失敗ばかりだったのですが、だからと言って、より良い自分になろうとすることをやめる必要はないはずだと思っていて。その気持ちをこの本の登場人物に背負わせているところもあります。
ーー『葬式同窓会』は、白麗高校3年6組の元クラスメイトたちの群像劇。担任教師の葬儀で7年ぶりの再会をするところからはじまり、現在と高校時代を行き来しながらストーリーが展開されます。
けんご:まず、キャラクターの描き方が素晴らしいですよね。特に北別府華は印象的でした。小説家を目指している女性ですが、「この生々しさはたまらないな」と。嫉妬や憎悪を前面に出す人と、それを内側に秘めるタイプの人がいると思うのですが、僕はどちらかというと後者なんです。華は完全に前者。もしかしたら「この子、好きじゃないな」という読者の方もいらっしゃるかもしれないけど、僕は華に対して憧れを持ったんですよね。とにかく夢や目標に向かって突き進んでいく姿もすごいな、と。
乾:華ちゃんがいじめる側に立つことで物語が動いている部分もあるので、著者としては「がんばってくれたな」という感じがありました。彼女を好きだと言ってくださると、私も救われた思いになりますね。
けんご:華は主人公の優菜に対して良くない感情を抱いていますが、そのきっかけが「身長の違い」という、第三者から見ると些細にさえ感じることだったというのがすごくリアルです。僕自身も中学、高校の頃は「自分より背が高い」「足が速い」というだけで「なんだあいつ」と思ってしまっていたので(笑)。
乾:私がそうだと言うわけではないのですが、「背の低い人は気が強い」と巷で言われることもありますよね。それはやはり、上から人の視線を受けることから生じているのかなと。
ーー主人公の柏崎優菜は、白麗高校の図書館の司書教諭として勤務しています。優菜に対してはどんなイメージがありますか?
けんご:優菜も好きなキャラクターですね。あまり楽しくない高校時代を過ごした彼女が、大人になって、母校の生徒たちと接している感じがすごくいいなと思って。単に優しいだけではなく、人を俯瞰して見られる女性じゃないかなと。
乾:優菜は基本的に平凡な子なんですが、その平凡さこそが非凡だと思っているんです。自分の10代の頃を振り返ると、「非凡でありたい」という気持ちが強かったんですよ。「私は人とは違うんじゃないか」という壮大な勘違いなんですが、それは思春期の時期にありがちなことでもある気がして。でも、優菜にはそれがないし、「平凡だ」という自覚がある。それって実は非凡なことなんじゃないかなと。
けんご:なるほど。青春群像劇はどうしてもキャラクターが多くなるし、書き分けが難しいと思うんです。『葬式同窓会』は印象に残るキャラクターが何人も登場するし、全員が主人公という印象もありました。
乾:うれしいです。たくさんの登場人物をすべて際立たせることは本当に難しくて。それぞれの輝き方があるし、それがきちんと伝わっているかどうか、いつも不安なんです。けんごさんに「全員が主人公」と言っていただけると、少し報われた気がします。
乾ルカのルーツには少女小説も
けんご:高校時代の話と現在進行形の描写が交互に出てくるのもいいですよね。彼ら、彼女らの現在の年齢は、ちょうど今の僕の年齢(25歳)なんですよ。なのでどうしても自分と照らし合わせながら読んでしまうところもあって。僕は福岡県の出身で、大学入学を機に上京したんですが、コロナになってから同窓会などの機会が著しく減ったんです。「みんなどうしてるかな」「今会ったら、こんなふうに昔話で盛り上がれるのかな」みたいなことも考えました。乾:けんごさんに会いたいというクラスメイトは多いんじゃないですか?
けんご:連絡を取ってる友達はいるんですが、僕はずっと野球部で、ちょっと特殊な環境に身を置いていたんですよね。野球のこと、プレーのことで部員同士がぶつかることはありましたが、その一方で絆は強くて。逆に『葬式同窓会』で描かれているような高校生活ではなかったので、「こういう青春を送ってみたかった」とも思いました。
乾:実は私もそうだったんです。私はソフトボール部だったのですが、部活のために学校に行っていたところがあって。誰が誰を好きかとか、そういう話にはまるで縁がなかったんです。『葬式同窓会』には、クラスメイトの前で告白する場面がありますが、そういう出来事を過剰に美しく見てしまうところがあるかもしれない。
けんご:乾さん自身がさほど体験していないことを物語に落とし込んでいるのもすごいですね。女子生徒が先輩に告白するシーン、読んでいて自分が照れてしまうというか(笑)、恥ずかしくなってしまって。それだけ物語に没入していたということだと思うし、想像力でああいう場面が描かけるのは素晴らしいなと。
乾:ありがとうございます。私もけんごさんが書いた花をモチーフにした恋愛小説集『ワカレ花』を読ませていただきましたが、ある物語のなかに、残念な感じの中年のニートが出てきますよね。25歳のけんごさんが、どうしてあのキャラクターを描けたのでしょうか?
けんご:大学3年のときにケガをして、野球ができなくなって。これまでの人生のなかでもどん底の時期だったんですけど、その頃を思い出して、「ニートのおじさんって、こんな感じじゃないかな」と。乾さんはどういうことからインスピレーションを受けて、高校生たちを書かれているんですか?
乾:「こうであったらよかった」という妄想も混じっていますね。この小説に出てくる人たちの多くは、良くも悪くも存在をクラスメイトに認知されているじゃないですか。「私もそういう経験をしてみたかったな」という憧れもあるんだと思います。たぶん、1週間くらいで居心地が悪くなる気がしますが(笑)。
けんご:(笑)。乾さんの『コイコワレ』も読ませていただきましたが、少女文学の名手という印象もありました。僕は男とばかり絡んできた人生なので(笑)、乾さんの小説を読むことで、「少女というのは、こういう存在なのか」と実感できるといいますか。
乾:デビューする前の話ですが、初めて最終選考に残していただいたのが、集英社のコバルト文庫(少女小説、ライトノベルを中心とした文庫レーベル)の新人賞だったんです。応募したのは私が最初に書いた小説で、「書いた以上は供養してやらないと」という思いで送ったのですが、最終選考まで残していただいたことで、その後も書き続けることができたのかな、と。10代の頃から氷室冴子さんが好きで、学生時代、氷室さんと同じキャンパスに通ったこともあって。確かに少女小説は、私のルーツの一つかもしれないです。
けんご:『葬式同窓会』には、華が書いている小説として、ファンタジー作品の一部も出てきます。乾さんご自身もファンタジーに興味があるんですか?
乾:面白いなと思っています。私自身が書かせていただける場はないと思いますが、優れたファンタジーは著者が思い描く世界を作り上げている。それには高度な技術が必要ですし、優れたファンタジーを読んでいるときの没入感はすごいですからね。
ーー『葬式同窓会』は、いじめ、毒親、LGBTQなど現代的な問題も絡んできます。
乾:明確に「これを書きたい」というものはなかったのですが、たくさんの登場人物がいるので、それぞれの特徴や生き方を決めていくなかで、そういった問題が割り振られたのかもしれません。
けんご:YouTubeの生配信で炎上してしまう場面もありますね。おそらく読者の方は「こんな配信をすれば批判されるに決まってる」と思うかもしれませんが、世の中で起きている炎上も、そんなことばっかりなんですよ。最近は正義感をふりかざして人を叩く“私刑”も流行ってしまっていて。僕もYouTube、Instagram、TikTokなどを使って活動していますが、SNSって本当に殺伐しているなと思います(笑)。