アンジェリーナ1/3「人を思いやる気持ちを忘れちゃいけない」 乾ルカ『コイコワレ』を読んで

アンジェリーナ1/3が読む『コイコワレ』

 伊坂幸太郎、朝井リョウ、大森兄弟、薬丸岳、吉田篤弘、天野純希、乾ルカ、澤田瞳子という注目の作家たちが、共通ルールを決めて、原始から未来までの歴史物語をいっせいに描く『螺旋プロジェクト』。リアルサウンド ブックでは『螺旋プロジェクト』作品がすべて文庫化したことを受けて、気鋭の書評家たちによる全作品のレビューを掲載する特集を展開してきた。

特集:螺旋プロジェクト

 特集の最後を飾るのは、乾ルカの『コイコワレ』。大戦末期を舞台に、無意識に忌み嫌い合うふたりの少女の運命を描いた作品だ。本書を読むのは、6人組ガールズバンド「Gacharic Spin」のマイクパフォーマー・アンジェリーナ1/3。現在21歳で、登場人物たちと近しい年代だからこその瑞々しい感想に注目されたい。

アンジェリーナ1/3

怒りにまかせた行動も人間の本能

 昨年末に対談させていただいた乾ルカさんの最新作『水底のスピカ』は高校生が主人公で、私の年齢でもすごく共感しやすい作品でした。(参考:乾ルカ×アンジェリーナ1/3が語る、友達の大切さと世界の美しさ 「全部が素敵だったと言える人生を過ごしたい」

 一方、今回の『コイコワレ』は太平洋戦争末期が舞台だったから、読み始めたときは「難しいかもしれないな」と思ったんです。でも、ぜんぜんそんなことはなくて、物語に没頭しました。いろいろな読み方ができる小説だと思いますが、自分が今まで触れたことがない感性や考え方を引き出してもらえた感覚があります。

 ストーリーの中心は、東京から宮城に集団疎開してきた清子と、疎開先で暮らしているリツ。生まれ育ちも見た目もまったく違う二人は、出会ったときからお互いをめちゃくちゃ嫌いになるんです。まともに会話もしてないし、まったく関わっていないのに、本能的な憎しみを覚えてしまう。私にはそんな経験がないので、どうしてこの子たちはこんなに嫌い合うんだろう?と少し不思議に感じました。

 清子は眼の色が人と違うせいか、疎開してきた級友の間でも疎まれているんです。クラスメイトは「この言葉を言ったら、この子はどうなるだろう?」という想像ができなくて、思ったことをそのまま口にしてしまう。純粋さゆえの残酷さですよね、それは。

 リツが清子を滝壺のなかに突き落とす場面も、純粋さゆえの残酷さなのかなと思いました。リツが慕っていた健次郎という男の子が死んでしまい、それを「清子のせいだ」と思い込んでしまったのが原因なんですけれど、あまりにもヒステリックだなって。ありえないとも思うけど、怒りにまかせたこういう行動も人間の本能なのかもしれないですね。

 でも、リツと清子はお互いのことを思いやろうと努力しはじめるんです。きっかけは、二人のことを大事に思っている年長者の言葉です。

 清子の場合は、お母さんの存在がすごく大きくて。疎開先にお母さんが来てくれたときに、「自制しなさい」と言われるんです。嫌いな相手には特に丁寧に、親切にしなさいって。清子はすぐに返事ができないんですけど、いろいろ考えて、“お母さんが言ってくれたんだから、がんばろう”と思うようになって、リツに「おはようって」挨拶をしはじめるんです。

 リツには、源助というおじいさん代わりの人がいて。身寄りのないリツのことをずっと気にかけてる人なんですが、彼女に対して、“本当に強い人間は憎しみを相手に向けず、自分と戦う”という話をするんです。リツも最初はその言葉をなかなか呑み込めないんだけど、彼女なりにやってみようとする。そういう二人の感受性と行動力は本当に素敵だなって思います。大人になればなるほど自分の価値観にこだわってしまいがちだけど、清子とリツはそうじゃなくて。大切な人の言葉に突き動かされて、自分を変えようとします。

 このエピソードは、私と重なるところもありました。私は中学生のときにお父さんを亡くしてるんですが、いろいろな言葉を残してくれて。私、「夢は口に出せば叶う」が口癖なんですけど、それはお父さんに言われたことなんです。やりたいことがあるんだったら、言葉にしたほうがいい。自分の夢に責任を持てるようになるし、周りの人も手助けしてくれたり、道しるべになってくれるからって。それは今も自分の糧になっているし、生きていくうえですごく大切なものになっています。

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