乾ルカ×アンジェリーナ1/3が語る、友達の大切さと世界の美しさ 「全部が素敵だったと言える人生を過ごしたい」

乾ルカ×アンジェリーナ1/3 対談

 乾ルカが新刊『水底のスピカ』を10月7日に上梓した。昨年発表した『おまえなんかに会いたくない』に続く本作は、北海道の高校に東京から転校してきた容姿端麗で頭脳明晰な美令、クラスのなかで孤高を演じている和奈、そして、クラスカースト上位の更紗の3人を中心とした青春群像劇。痛みや葛藤を抱えながらも、希望の光を求め続ける3人が織りなす物語は幅広い層の読者の共感を集めている。

 リアルサウンド ブックでは乾ルカと、10月より文化放送でレギュラー番組『アンジェリーナ1/3のA世代!ラジオ』をスタートさせたばかりのアンジェリーナ1/3(Gacharic Spin)の対談をセッティング。『水底のスピカ』を中心に置きながら、思春期の人間関係、現在の社会における希望の在り方などについて語り合ってもらった。

当時の感覚を大切にしてきたことで今の自分がある

乾ルカ『水底のスピカ』(中央公論新社)

——乾ルカさんの新作『水底のスピカ』は、前作『おまえなんかに会いたくない』に続く、北海道の高校を舞台にした青春群像劇。20歳のアンジーさんにとっては、身近なストーリーだったのでは?

アンジェリーナ1/3(以下、アンジー):そうですね! 高校生の友人関係が鮮明に描かれていて、まるで自分が学生の頃に戻ったような感覚があって。自分の記憶と重なって、涙が出そうになる場面もありました。10代の頃って、どうしても自分の主観で物事を捉えがちだと思うんです。『水底のスピカ』に登場する子たちもそうだけど、“自分が主人公”って思いたいし、“いちばんカッコよくありたい”という気持ちがある。私もそうだったし、そんな当時のことをリアルに思い出しました。

乾ルカ(以下、乾):ありがとうございます。素敵な感想を持っていただいて、すごく嬉しいです。書いている最中に「ちゃんと伝わるだろうか?」と感じていたところもしっかり汲み取っていただいて、著者としてこんなに喜ばしいことはありません。

——『水底のスピカ』は前作『おまえなんかに会いたくない』と舞台設定に繋がりがある作品だとか。

乾:はい。時代が違うのですが、前作と同じ“北海道立白麗高校”が舞台になっています。これまではホラーに分類される小説なども書いてきたのですが、私としてはすべて青春小説を書いているつもりなんです。そのことを担当編集の方が覚えてくれていて、『おまえなんかに会いたくない』を出したときに、「これは3部作にしましょう」と仰ってくれたのがこの小説を書いたきっかけです。

——青春時代の記憶も、小説家としての礎になっているんでしょうか?

乾:そうかもしれません。私は充実した高校生活を送ることができなくて、「どうして私はこうなんだろう?」といたたまれなさを感じていました。ずっと思い悩んでいたし、そのときに抱えていたものは、今も解消できていない。私はなかなか成長ができなくて、18歳の頃から考え方が変わっていない気がするんです。そのことを踏まえて、「過去の自分に語り聞かせたい」と思いながら書いていたところもあります。

アンジー:そうだったんですね。『水底のスピカ』のなかでいちばん自分にリンクしたのは、更紗ちゃんの妹の瑠璃ちゃん。彼女たちは父親を亡くしていますが、自分も同じように、中学1年のときに父を亡くしていて、そのときの記憶が現在の人生に大きく影響しているんです。親族もみんな泣いている中で、なぜか自分は「強くいなくちゃいけない」と思ってしまって。すごく強がっていたし、そのせいで周りの人と上手く話すことが難しくなったんです。そんな状況の中ですがったものが音楽でした。いま音楽をやっていることもそうだし、あのときの状況があったからこそ、周りの20歳の子には伝えられないことも発信できるはずだと思っています。まだまだ大人にはなりきれていないけれど、当時の感覚を大切にしてきたことで今の自分があるんだなって。『水底のスピカ』を読んで、そのことを改めて実感しました。

乾:小説はフィクションなので、嘘をさも本当のように書いている部分がある。登場人物にしっかり血肉を与えて、“光が当たれば、ちゃんと影が出る”という人物造形をしたいと思っているんです。だから、アンジーさんが共感できるキャラクターを見つけてくださったことは、本当に励みになります。

“友達がいれば大丈夫”と思いたい

乾ルカ

——『水底のスピカ』に登場する高校生たちは、それぞれシリアスな状況にあります。“困難にある10代の若者がどう生きていくか”もテーマの一つだったのでしょうか?

乾:はい、その通りです。もちろん、彼女たちは高校生なので、すべての問題を解決できるわけではない。ただ、100%上手くいくことはないとしても、それでも何とか生きてほしいという思いはありました。彼女たちが交わす“10年後に会う”という約束もそうですし、とりあえず明日まで進んでみようと思ってもらえたらいいな、と。

——友達の大切さも描かれていますね。

乾:私の青春時代が明るくなかった理由の一つが、友達があまりいなかったことなんです。教室や部活で一緒にいる子はいたけれど、卒業したらそれきり。あとは年賀状のやり取りだけで、「会えたらいいね」と何十年も書き続けているという感じです。だからこそ、ちょっと恥ずかしいんですが、友情に対して過度な憧れを持っているところがあります。“友達がいれば大丈夫”と思いたい。そのことを今回の小説では、おとぎ話のように書いているところもあります。

アンジー:私も実は友達は少なかったです(笑)。ただ、一人だけずっと助けてくれた子がいて。3歳から一緒にいてくれる親友なんですけど、中学のときに自分が不登校になったときも、すごく支えてくれたんです。今はこんな見た目でワーッとやってるんですけど、当時はネクラで、人の目を気にするタイプで。そんなときもずっとそばにいてくれて、ぜんぜん言葉がまとまらない状態のときでも、「うんうん」と聞いてくれたんです。その後、ちゃんと学校に通えるようになって、高校に進学できたのもその子のおかげだと思います。

乾:すごくいい話です。私がアンジーさんとこうやってお話できるのも、その方のおかげでもあるんですね。

アンジー:そうなんですよ! 彼女がいてくれたことで実現できたことがたくさんあるなって、いまになってすごく思います。

高校生のときにこの本に出会いたかった

アンジェリーナ1/3

——小説を通して、読者とつながることも支えになるのでは?

乾:もちろん大いに支えになっています。アンジーさんのようにしっかり受け取ってくれる方がいると、「届いた」という実感があるし、本当に書いてよかったなと。救われた気持ちになります。

アンジー:その感覚もすごくわかります。ファンのみなさんには普段から、たくさんのものを受け取っていて。応援してもらえているのも日々感じているし、「これが当たり前になっちゃいけない」と常に思っているんです。たとえばライブにしても、「期待を超えないと、次のライブに来てくれない」という思いでステージに立っているので。

——アンジェリーナさんは“マイクパフォーマー”という立ち位置なので、オーディエンスとバンドを繋ぐ役割もありそうですね。

乾:10月に開催されたGacharic Spinの名古屋のライブ(結成13周年記念ライブ)の映像を拝見させてもらって、まずバンドの演奏の上手さにビックリしました。そして、「マイクパフォーマーって、どんなことをするんだろう?」と思いながら観ていたのですが、アンジーさんは何でもできるんですね。歌はもちろん、MCも素敵で。低音の響きもすごく好きです。

アンジー:ありがとうございます! 小学生くらいからこういう声なんですけど、「男みたいだな」ってからかわれてたし、自分の声が好きじゃなかったんです。でも、歌う人になりたいという気持ちはずっとあって。バンドに加入したのは高校2年のときで、その時点で10周年のタイミングだったんです。“マイクパフォーマー”と言われたときは、「え、ボーカルじゃないんだ?」とちょっとガッカリしたんですよ(笑)。でも、自分が活動していってメンバーと話すなかで、「表現できることは全部やっていいよ」「Gacharic Spinを表現する“声”になってほしい」と言われて、マイクパフォーマーという役割を徐々に理解していきました。今は「この声でよかった」と思っているし、すごくやりがいを感じています。

乾:パフォーマンスもすごいですよね。「MindSet」のMVも印象的でした。黒髪からいきなりピンクの髪になるシーンが本当に格好よくて、すっかりファンになっちゃいました。

アンジー:わ、ありがとうございます! 学生の頃って、本当にあんなテンションだったんですよ(笑)。「学校なんて、意味あるの?」みたいな。私が通っていたのは表現を学ぶ高校で、通っている子たちはみんな自我がすごかったんです。まさに「私が主人公」というタイプの子ばかりで、だからこそ人間関係も難しかった。『水底のスピカ』を読んだときに「周りの人たちの世界線を理解したうえで接することができれば、もっといい人間関係が作れただろうし、人としても成長できたかもな」と思いました。高校生のときにこの本に出会いたかったです。もちろん、いいこともあったんですけどね。高校のときに学園祭で初めてやった弾き語りをGacharic Spinのリーダーが見て、「オーディション受けてみない?」ときっかけをくれたので。

——乾先生も高校時代から「小説家になりたい」と思っていたんですか?

乾:申し訳ないんですけど、まったく考えていませんでした。勉強も全然やってなかったし、やっていたことと言えば、部活か寝るかという生活で。本もあまり読んでいなかったし、どうしようもない高校生でしたね。

アンジー:私も勉強はしてなかったです(笑)。

乾:短大のときも、社会人になっても同じような生活を続けていて。ただ、高校卒業後はかなり本を読んでいたんですよ。きっかけになったのは、母の一言ですね。ハローワークから帰ってきて、本を読んでいたら、「そんなに本ばかり読んでるんだったら、自分でも書いてみたら」と言ってくれて。

アンジー:それもすごいきっかけですね! やっぱり、周りの人の影響ってすごいなと思います。

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