『呪術廻戦』虎杖悠仁はなぜ人に好かれる?「人たらし」を極めた新時代の主人公像

『呪術廻戦』渋谷の街で“特級”のイベント開催

新時代の主人公はやさしさが重要?

 よくマンガ編集者の口から語られる内容だが、少年マンガの主人公は、強烈なエゴによって物語を突き動かす存在だと言われることが多い。なんらかの夢や野望、欲望を胸に抱いて、そこに周囲の人々を巻き込んでいくというあり方だ。たとえば『ドラゴンボール』の孫悟空なら、「強くなること」が強い原動力となっていた。

  そうしたエゴイズムの存在があってこそ、読者の胸を躍らせる壮大な冒険が成立すると言ってもいい。しかしその反面、時に他人の心に対して無神経な振る舞いをとってしまうのも、エゴイストの特徴だろう。悟空が異性に対してデリカシーに欠けた行動をとり続けてきたことは、それを象徴するかのようだ。

  一方で、虎杖は少年マンガの主人公でありながら、人の心をよく理解し、利他的な振る舞いを徹底してきた。あたかもエゴイズムを放棄しているかのように見えるほどだ。もちろん虎杖にも「人を助けたい」という使命感はあるが、それは最初祖父から託され、その後宿儺との関わりで逃れられなくなった“呪い”のようなものだ。おそらくそうした特殊な性質こそが、虎杖の過剰なやさしさや共感能力を生んでいるのではないだろうか。

  奇しくも、同じ『週刊少年ジャンプ』で大ブームを巻き起こした『鬼滅の刃』の竈門炭治郎も、エゴイズムを振り捨てて他人のために生きる主人公だった。なにかと窮屈な時代、読者はマンガのなかに“やさしさ”を求めているのかもしれない。

 

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