『呪術廻戦』夏油傑と伏黒甚爾の間にある強い因縁 呪術界を揺るがす2人の関係とは?
※本稿は『呪術廻戦』のネタバレを含みます。
アニメ『呪術廻戦』の第2期「懐玉・玉折」でも描かれたように、夏油傑と伏黒甚爾のあいだには強い因縁があった。夏油の行動を子細に検討すると、その端々に甚爾の影響を読み取ることができるほどだ。2人は一体どんな因果で結ばれていたのか、あらためて検討してみよう。
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夏油と甚爾が出会うきっかけとなったのは、“星漿体”天内理子の護衛任務だった。呪術高専の学生でありながら、五条悟とともに特級術師の一角として将来を嘱望されていた夏油にとって、人生最大の転機と言える出来事だ。
甚爾は呪力を一切持たない代わりに、常人離れした身体能力を手に入れたフィジカルギフテッドの持ち主。呪術高等(東京校)の最下層にある薨星宮で、彼は夏油をあっさりと一蹴する。そしてその去り際に、呪術師として恵まれた才能をもった夏油たちを皮肉り、「呪術の使えねえ、俺みたいな猿に負けたってこと、長生きしたきゃ忘れんな」という言葉を残していく──。
後に夏油は、呪術を使えない非術師を憎むようになり、呪詛師へと転身するが、そこで口癖のように「猿」という言葉を使っていたのが印象的だ。意識的か無意識かは分からないが、“最強の非術師”が残した言葉に影響を受けたと考えるのが自然だろう。
ほかにも0巻に収録された「百鬼夜行」事件では、甚爾の影響力を感じる描写が数多くあった。夏油は禪院真希と対峙した際、心の底から見下すような視線を向け、「君のような猿は私の世界にはいらない」と言い放つ。真希は血筋的にも、フィジカルギフテッドをもつ点でも甚爾と共通しているため、ささやかな復讐の意図が込められていたのかもしれない。
しかしそれほど真希を侮辱した夏油だが、彼女を倒した際には、トドメを刺さずにその場を去っていた。酷い怪我を負い、反転術式による治療がなければ危うい状態だったとはいえ、本来は蘇生不可能な状態にすることもできただろう。これはかつて夏油が甚爾に倒されつつも、命を奪われなかったことへの、意趣返しのようにも見える。
修羅の道を歩むことを選んだ2人の男
さらに2人の行動で共通しているのが、呪術高専への襲撃だ。甚爾は星漿体暗殺任務のなかで、呪術高専に入っていく五条や夏油に襲いかかった。それから約10年後、夏油は非術師の殲滅に向けて、甚爾と同じ“呪術高専への突入”というミッションを行っている。
夏油の目的は、あくまで特級過呪怨霊「祈本里香」を奪うことにあり、クレバーな計算の結果とも言えるだろう。しかし壮大な夢の実現に向けた第一歩として、自分の人生を変えた呪術高専を舞台として選んだ……という面もあったのかもしれない。だとすれば、夏油は甚爾の行動を反復してしまうほど、彼からの影響を受けていたことになる。
なお、夏油はより深い部分でも甚爾とリンクしているとも言える。2人の足跡や行動の動機には、どこか重なる部分があるのだ。
甚爾は表向き、金目当てのドライな人間に見えるが、自分を否定した禪院家、ひいては呪術界への恨みに近い感情をもっていた。呪術界を揺るがした星漿体の暗殺は、そんな境遇をもつ復讐者によって成し遂げられたということだ。その一方、夏油もまた別の形の絶望を味わい、呪術師に理不尽な生き方を強いる世界に恨みを抱き、呪術界を裏切ることを選んだ。
もちろん、同じように呪術界を揺るがしたとはいえ、その目指す地点はまったく別だった。しかし2人が世界のいびつな価値観に翻弄された当事者であることも、確かだろう。夏油は甚爾にどんな想いを抱いていたのか、いつかどこかで語られる日を待ちたい。