累計370万部のベストセラー『コーヒーが冷めないうちに』なぜ海外展開に成功? 著者・川口俊和 & 編集・池田るり子インタビュー
サンマーク出版の海外展開の手法
――池田さんは海外での展開にあたって、何か特別な取り組みはしたのでしょうか?
池田:まず、日本で売れ始めてすぐに台湾の編集長が、読者の感想を読んだだけで泣いたと言ってくれて、台湾版の出版が決まりました。そこから、ヨーロッパ、英語圏と広げていくのですが、そもそも、日本の小説が英語圏で出版されるまではハードルがとても高いんです。アメリカにはたくさんの小説家がいるので、わざわざ日本の小説を翻訳する必要がないためです。ただ、当社はライツ事業部が強く、「こんなに素晴らしい物語なのだから海外にも届けたい」と言ってくれて、一緒に売り出し方を真剣に考えました。まずは、一方的に翻訳して英語版を作ったんです。海外の編集者に読んでもらい、内容がよかったら出版してくださいと。
――その後、具体的にはどのような宣伝を行ったのでしょうか。
池田:台湾では、書店の中に喫茶店の空間を再現してもらいました。あとは、日本の書店で販促に使っていたパネルやPOPと同じものを各国向けに作ってもらいました。そうそう、TikTokでも広まりましたね。本を読んで泣いている様子を、ハッシュタグをつけてUPするのが流行ったようです。
川口:あと、イタリア人はサイン会に同じ本を3~4冊持ってきてくださるんです。聞けば、友達にプレゼントしたいそうなんですね。イタリアではロックダウンで人と関われない中、本を贈るのが流行ったそうで、プレゼントと口コミがきっかけで広がったようです。僕の本が人とのつながりに役立っているのだとしたら、書いたことに意味があったと感じます。
――日本文学の海外展開でこれほど成功したケースは稀です。この先、新しい可能性も広がりそうでワクワクします。
池田:この先、ハリウッドで映像化される予定もありますし、韓国でも映像化が決まっています。日本では既に映画化されていますが、一味違う形になるでしょう。ここからどう広がっていくのか、川口先生のファンとしても楽しみにしています。
待望の最新刊、見どころは?
――最新作『やさしさを忘れぬうちに』はシリーズ5作目となります。改めて読みどころを教えてください。
川口:4~5作目は、1~2作目の間にあたる物語です。物語自体は1~3作目で完結しているのですが、取りこぼした物語もありますから、5作目で丁寧に紡ごうと思って書きました。
――執筆中にコロナ禍もありましたよね。社会情勢も作品に影響を与えていますか。
川口:コロナ禍の最中では、友人の祖父が亡くなっても病院に行けないという体験をしていました。それが心に強く残っていて。それと、僕の父が8歳の時に亡くなり、別れが言えなかった経験なども盛り込んで、4作目を書きました。そして、最新刊の5作目では優しさをテーマに据えました。コロナ禍が明けたとき、人に対してどんな思いで接すればいいのかわからないとか、最近人に優しくできていないと思った人に読んでもらえるといいなと思いました。
池田:川口さんの、人の本心の描写が本当にすばらしいんです。外側からは見えない本心をしっかり見つけて書かれます。その良さが5作目にはしっかり表れているように思います。離婚した両親に言えなかったこと、娘の結婚を許してあげられなかったことなど、誰にでもあるけれど表面に出せない人間らしい一面を感じさせる物語が詰まっています。
――早くも6作目に期待する読者も多いと思います。川口さんはこの先、どんな物語を書いていきたいと考えていますか。
川口:正直、僕は自分が書く小説を上手いとか、感動するとか、思っていないんです。でも、52年生きてきて僕にしか書けない物語もたくさんあると思いますから、みなさんに求められている間は全力で書いていきたいと思います。これからも応援していただけると嬉しいです。
■書籍情報
『やさしさを忘れぬうちに』
著者:川口俊和
価格:1,540円
発売日:2023年3月13日
出版社:サンマーク出版
公式サイト:https://www.sunmark.co.jp/detail.php?csid=4039-5