『ガンダムZZ』アムロ/カミーユと違う主人公像と、シリーズの不文律から離れたZZという機体ーー12話に表れた特異性を考察

『ガンダムZZ』第十二話レビュー

 多くのファンを抱える『機動戦士ガンダム』シリーズにおいて、何かと不遇な『ガンダムZZ』。はたして本当に“見なくていい”作品なのか? 令和のいま、ミリタリー作品に詳しくプラモデルも愛好するライターのしげるが、一話ごとにじっくりレビューしていく。

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【連載第一回】第一話から「総集編」の不穏な幕開け
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第十二話 リィナが消えた

[あらすじ]
 度重なる失敗を受け、エンドラを去ることにしたマシュマー。グレミーは引き止めようとするが、部下だったゴットンもキャラ側につき、マシュマーは失意のうちにエンドラを出ていく。

 その頃、コアファイターとコアトップに乗って、訓練飛行兼ラビアンローズへの補給物資受け取りに出ていたジュドー、エル、ビーチャの3人は、航行中に放棄されたザクⅡを発見。高値で売れるモビルスーツを見つけた3人は、訓練そっちのけでザクの回収作業を始めてしまう。いまだにジャンク屋時代のノリが抜けないジュドーたちに怒ったリィナは、責任をとってジュドーがやるはずだった補給物資の整理作業を自分が行うため、ルーと一緒にコアベースでアーガマを飛び立つ。

 一方、キャラはエンドラをラビアンローズに高速で突入させ、破壊しつつ物資を強奪する作戦を強行する。運悪くそこにルーとリィナが乗ったコアベースが居合わせてしまい、2人はグレミーの追跡を受ける。以前ルーに騙されたグレミーは、執拗にルーの乗ったコアベースを追う。アーガマにザクを曳航しようとしていたジュドーたちは、リィナたちが攻撃を受けたラビアンローズに向かったことを知って方向を転換、ラビアンローズへと急行する。

 追跡されていたルーは、またしてもグレミーを騙すことに成功し、スキを突いてリィナと共に脱出する。ジュドーは2人の乗ったコアベースとの合流に成功するが、ガザC隊の妨害を受けてZZガンダムへ合体することができない。一方アーガマでは、回収したザクの頭を取り付けたZガンダムである「Zザク」に乗ったイーノがジュドーを支援するために出撃する。

 イーノはZザクで戦場に乗り込み、その助けを受けてジュドーたちはZZガンダムへの合体を成功させる。圧倒的なパワーでガザC隊を一掃するZZガンダム。不利を知ってラビアンローズを人質にしようとしていたキャラだが、ラビアンローズはアームによってエンドラを排除しようとする。エンドラは逆噴射でラビアンローズから離れ、キャラはRジャジャでZZガンダムを迎え撃つ。

 キャラが乗ったRジャジャのエキセントリックな動きに戸惑うジュドーだが、そのペースに引きずられるうちに宇宙的なビジョンを見る。ジュドーを助けようと攻撃を仕掛けたルーのコアファイターはRジャジャに振り払われ、ルーとリィナは宇宙へと放り出される。

 リィナの悲鳴を直感的にキャッチしたことで、ジュドーは意識を取り戻す。Rジャジャの攻撃を受け流しつつ、ダブルビームライフルを発砲。掠めただけで装甲を溶かす威力に、さすがのキャラも驚きを隠せない。さらにジュドーはZZガンダムの頭部に取り付けられたハイメガキャノンを撃ち、キャラを追い払う。しかしハイメガキャノン発射によってエネルギーを使い果たしたZZガンダムには、追撃するだけの余力は残されていなかった。

 宇宙に放り出されたリィナをルーと勘違いしたグレミーは、リィナをそのままエンドラに持ち帰ってしまう。妹の姿が消えたことに焦るジュドーは、虚空に向かってビームライフルを乱射するのだった。

 アーガマに乗り込んでそれなりに時間が経過し、さらに新型機を受け取ったにも関わらず、なかなかジャンク屋だったころのクセが抜けないジュドーたち。そんな彼らのノリの軽さが、「リィナを誘拐される」という結果となって跳ね返ってくるエピソードである。

 思えば、『機動戦士ガンダム』以降、常に物語の主役は軍人としてはアマチュアの少年だった。アムロやカミーユは戦いの中で殴られたりスネたりしながら、戦士として成長していったのである。しかし、どうやらジュドーやその仲間たちは、素直に戦士として成長するような少年少女たちではないらしい。跳ねっ返りかたが、以前の2作の主人公たちとは異なるのである。

 アムロもカミーユも、少々歪な家庭で育ったいささか内向的な少年たちである。彼らの家庭は一見するとまともに見えるが、中にはそれなりにトラブルを抱えていた。「家庭内に問題を抱えた、ちょっとナヨナヨした現代的な少年」が主人公だったというのは、『ZZ』以前のガンダムシリーズの大きな特徴だったはずである。

 しかし、この連載で以前も書いたように、ジュドーはアムロやカミーユとは大きく異なる。出稼ぎに出た両親は不在で、仲間達と群れて違法なシノギで稼ぎ、それで妹を食わせている。彼は中産階級の機能不全家庭で育ったナヨナヨした少年ではなく、生命力に満ちたストリートの不良である。『ZZ』前半の妙なノリの軽さは、この陽性の主人公の性格や魅力、そしてそこから紡がれる今までのガンダムとは違う物語を、なんとかして表現しようと悪戦苦闘した結果であるように思う。

 その主人公としての性質の違いは、今回のストーリーでも表現されている。ZZガンダムへの慣熟訓練の最中でも、金目のモビルスーツが落ちていればサッサと拾いに行く。戦闘のプロになる気も軍人として生きていく気もさらさらなく、自分達が生き延びるためにZZガンダムを使って戦う。そういう主人公がガンダムシリーズに放り込まれたときに何が起きるか……という実験が、『ZZ』の主題のひとつだったのではないだろうか。

 その結果として、今回は「任務中に他に気がそれて、最終的に主人公の妹が敵に誘拐された」という状況となった。ここで素直に反省して、以降はプロの戦士を目指す……という結果になってしまっては、わざわざ不良を主人公にした意味がない。ジュドーならば、跳ねっ返りのままリィナを救出するルートを選ぶはずである。

 もうひとつ、今回の見どころとして「ZZガンダムの弱点と強さの表現」という点がある。コアファイターを含む3機が合体しなくては、ZZガンダムは真の力を発揮することができない。今回のZZガンダムは分離した状態で登場し、3機合体をエンドラのガザC隊に妨害されることで「合体できるのか」というスリルを作り出していた。コアブロックとAパーツおよびBパーツの合体は初代ガンダムでも搭載された構造だったが、基本的には全身が接続された状態で登場することが多かったため、分離・合体をめぐるスリルはさほど表現されていなかった。ここはZZガンダムという機体の構造を生かしたシーンである。

 合体するまでに時間のかかったZZガンダムだったが、一旦合体してしまえばその威力は絶大だ。前回はストーリーの最後に合体しただけだったが、今回はZZガンダムの高いパワーをいかに表現するかに工夫が凝らされている。ダブルビームライフルの光線は掠めただけでRジャジャの装甲を溶かし、必殺のハイメガキャノンは一撃でキャラを行動不能にした。

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