『AKIRA』金田は『ONE PIECE』ルフィ並みの“ヒーロー”だった? オカモトショウが名作SFを読み解く

『AKIRA』をオカモトショウが読み解く

 ロックバンドOKAMOTO’Sのボーカル、そして、ソロアーティストとしても活躍するオカモトショウが、名作マンガや注目作品をご紹介する「月刊オカモトショウ」。今回取り上げるのは、SFマンガの金字塔『AKIRA』(大友克洋/講談社)。80年代を代表するこの作品をオカモトショウが改めて紐解きます!

装丁からも漂う名作感

——今回は『AKIRA』です。言わずと知れた大名作ですが、なぜこのタイミングで?

 編集部から「『AKIRA』はどうですか?」とお勧めされたのがきっかけなんですけど(笑)、自分も「いつかは紹介しないといけないな」と思ってたんですよ。いろんな解釈がある作品だと思うので、『AKIRA』が大好きなみなさん、お手柔らかに読んでくださいね(笑)。

——『AKIRA』は1982年から1990年まで「週刊ヤングマガジン」で連載されました。90年生まれのショウさんが初めて『AKIRA』を読んだのは?

 いつだったか覚えてないんですけど、友達の家にあったんですよね。本のサイズ(B5版)がデカいから目立つし、このサイズで出版されている時点で既に名作じゃないですか。『火の鳥』(手塚治虫)みたいな。

——豪華本とかではなく、最初からこのサイズですからね。当時としても異例だったと思います。

 そんなことあり得るの? っていう。初めて読んだときも「すごい!」と思いました。めちゃくちゃカッコ良くて、しかも、よくわからなくて(笑)。(絵や構図、デザインなどが)ぶっちぎりにカッコいいからどんどん読めるし楽しいんだけど、子どものときはストーリーがよくわからなかったんですよ。

——『AKIRA』の舞台は2019年、第三次世界大戦後の“ネオ東京”。連載が始まった1982年の時点では“37年後”の未来だったわけですが、この作品で描かれている東京はどんな印象でしょう?

 憧れもありますね。大戦前の東京も少しだけ描かれていて、それは自分たちにも馴染みのある風景で。大戦後のネオ東京は、映像で見たことがある戦後の東京の空気と似ている気がします。

——『AKIRA』には、現実の第二次世界大戦後の東京、復興からオリンピックまでを近未来の作品として描くというテーマもあったようです。

 東京は何度か破壊と再建を繰り返してますからね。もしかしたら、今も静かに壊れているのかもしれないけど……。金田(『AKIRA』の主人公)みたいな元気な不良もいないし。『AKIRA』に出てくる不良がバイクを乗り回している描写って元気出ますよね。自分たちが学生の頃、既に不良っていなかったんですよ。今はバイクに乗るんじゃなくて、オタク文化にハマったり、推し活してるのかも。

『AKIRA』の日本的な価値観

——『AKIRA』はオタクカルチャーとしても圧倒的な影響力を持っていて。「金田のバイク」のフィギュアは今もめちゃくちゃ人気です。

 スタイリッシュなんですよね。バイクもそうだし、メカもカッコいいし、今読んでもまったくダサくないのはすごいなと思います。ここまでサイバーパンク的な世界をしっかり描いたマンガも『AKIRA』が初めてたんじゃないかな、たぶん。

——「2020年に東京オリンピックが行われるはずだった」という設定もすごいですよね。

 実際に2020年になって、オリンピックが中止になったときに「マジで?『AKIRA』じゃん」ってなりましたからね。預言の書じゃないけど、優れた作品が未来を言い当ててることってあるじゃないですか。やっぱりパワーを持っているマンガなんだなって思いますね。

——ストーリーは、バイクチームの仲間である鉄雄が、軍の施設の実験により強大なパワーを獲得するところからスタート。そこにゲリラ活動を行っているケイとの出会い、かつて東京を壊滅させた「アキラ」の存在、軍や政府、新興宗教が絡み合い、死闘が繰り広げられます。

 子どものときに読んでいちばんわからなかったのが、アキラや鉄雄の“力”だったんですよね。4巻でミヤコ(宗教団体を率いる老婆)が鉄雄に“力”について説明する場面があるんですよ。要は「宇宙全体に大きな流れがあり、それを押しとどめようとするのが“力”」だと。いったん流れを止めた後、それを開放したときに巨大な爆発のようなものが起きるということなんですけど、これってかなり日本的だと思うんですよ。

 たとえば地鎮祭ってあるじゃないですか。建物を建てる前に、その土地の神様に挨拶するっていう。目には見えないけど、そこに大きな土地の流れがあるという考え方は『AKIRA』にも通じてるんじゃないかなと。西洋や中東の一神教にはそういう価値観はないだろうし、ある種のアニミズム的なイメージが『AKIRA』にはあるような気がします。そういう日本的、アジア的な感じと、近未来的なカッコ良さが合わさっているというか。

——なるほど。

 作品のなかでもそれを理解しているのはたぶんミヤコ様だけなんですけど、今回改めて読み直して「この考え方ってすごく大事だな」と思いました。まだ35年しか生きてないですけど、流れを無理に阻害して、自分の想いのままにやろうとしても上手くいかないんですよね。流れのなかにいることを意識して、そのなかで自分をどう作るか?が生きるコツなのかなって。……まあ、俺も上手くできてないですけど(笑)。

金田と『チェンソーマン』デンジの違い

——主人公の金田は「俺達ァ健康優良不良少年だぜ」の名セリフで知られていますが、金田に対してはどんな印象がありますか?

 これは完全に個人的な意見なんですけど、『ONE PIECE』のルフィに似てないですか?
バイクチームのリーダーで、仲間を引き連れて「やってやろうぜ!」みたいな。ぜんぜん落ち込まないし、ゴハンめっちゃ食べるし、直感のまま行動して。80年代当時は、金田ってどんなキャラだと思われてたんでしょうね?

——ヒーローじゃないですか? 「金田、カッコいいな!」っていう。

 たぶんですけど、今の子どもたちがそこまで金田のことを好きじゃない気がするんですよ。たとえば『チェンソーマン』のデンジも欲望のまま生きてる感じがありますけど、一貫して「普通の幸せがほしい」と思ってるじゃないですか。金田はもっと明るいし、やりたいことをやってるだけな感じがして。

——基本的にはバイクと女の子が好きな男子ですからね。ヒロインのケイは物語の終盤で重要な役割を担いますが、金田はずっと不良少年のままなので。

 そうですよね。鉄雄との関係も興味深くて。もともとは金田がリーダーで、鉄雄は冴えない存在だったんですけど、どういう関係なのかいまいちわからないんですよね。

 最終巻(6巻)の最後のほうでやっと、子どもの頃から知り合いだったことや、金田が鉄雄と友達になろうとしてたことが描かれているんだけど、その直後に生命の記憶みたいな話になるっていう。たぶん、上手く友達になれなかったとんだと思うんですよ。「は? うるせえ。俺、おまえのこと別に好きじゃねえし」みたいな感じだったんじゃないかなと。

——金田はずっと「鉄雄とケりをつける」みたいなノリですけど、どこかで「鉄雄を取り戻したい」と思ってそうですよね。

 たぶん現代のマンガだったら、そこをじっくり描くと思うんですよね。もしくはちゃんと鉄雄を取り戻すというストーリーにするか。2人の気持ちがあまりわからないように描いている気もするし、読んでて「金田と鉄雄の友情ストーリー、ホントに必要?」と思うこともありました(笑)。もちろん、そこが読者の心を動かしているのは間違いないし、作者の大友さんはそれが描きたかったという話も聞くんですけど、二人の友情物語が『AKIRA』のわかりづらさにつながっている気もしますね。あと、大人になってから読み直したときに感じたのが“大佐”のカッコよさで。

——アキラを管理・研究する軍の最高幹部、敷島大佐ですね。

 学生のときは「この人、ウザいな」と思ってたんだけど、大佐は本当に人間力が高い。アキラの危険性をいちばんわかっていて、政治家の会議でも(アキラを管理するための)「予算を減らすことはあり得ない」みたいな主張をして。自分の責任でクーデータを企てるんですけど、それも日本を守るためなんですよね。東京が壊滅した後、かつての部下に敬礼されるシーンがあるんですけど、その理由もよくわかるなって。こういう大人が組織には必要なんだと思い知りました。

——1988年には映画『AKIRA』が公開されました。監督は大友克洋さんご自身。今年1月にNHK Eテレで放送され話題を集めました。

 公開された時代を考えると、ものすごい映像ですよね。芸能山城組の音楽も素晴らしいです。サイバーパンクに民俗音楽を合わせたのはめちゃくちゃ斬新だし、菅野よう子さんが手掛けた『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の音楽などにもつながってると思います。ただ原作以上にストーリーがわかりづらいと思うので、マンガを読んでから観たほうがいいかなと。「AKIRA」は電子書籍が配信されてなくて、コミックで読むしかないんですよ。この大きさで読むのがいちばんいいと思うので、ぜひ手に取ってみてください。

『AKIRA』を読みながら聞きたい音楽

「ぞめき八 Re-mixes Stupendous!」

「ahoracorp」YouTubeチャンネルより

 音楽家の久保田麻琴さんが手がけている「ぞめき」シリーズの8作目。阿波踊りとクラブミュージックを合わせてリミックスしてるんですけど、日本的な雰囲気とスタイリッシュなデザインが融合している『AKIRA』にピッタリだと思います。

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