ゾンビ、なぜ100年以上も色褪せない? ポップカルチャーアイコンとしての歴史と魅力

ゾンビはなぜ人々を魅了する?

ポップカルチャーに登場するゾンビ――ウィルス型ゾンビと黒魔術型ゾンビ

  時は1932年。銀幕に初めてゾンビが姿を現した。

  ゾンビ映画の元祖『恐怖城』はブードゥー教が盛んなハイチを舞台としており、伝統的な文化背景に基づくゾンビ映画である。主役のゾンビマスターを演じたベラ・ルゴシはドラキュラ役で一世を風靡した怪奇映画の大スターだ。同作ははっきり「ゾンビ」という単語がセリフとして発せられている非常にわかりやすく名実ともに"元祖の"ゾンビ映画である。

  しかしながら、ゾンビがポップカルチャーの王座に君臨するにはもう少しの時間が必要だった。『恐怖城』はいくつかのフォロワー作品を生み出したものの、いずれも成功したとは言い難い。

  ゾンビを有名にした作品は間違いなく『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』である。1968年の同作とその続編『ゾンビ』は低予算ながら大ヒットし、数々のフォロワーを生み出した。ゾンビのトレードマークであるぎこちない歩き方や「死者が蘇って生者の肉を喰らう」「ゾンビに噛まれた者も、またゾンビになる」「脳を破壊されるまで活動を停止しない」とブードゥに由来する古典的ゾンビとは異なるモダンゾンビの特徴はフォロワーたちに受け継がれていく。

  ちなみに意外なことに『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』には「ゾンビ」という単語が登場しない。蘇った屍は終始"正体不明の何か"である。

  以降、ゾンビはポップカルチャーのありふれたネタへと一般化していく。遠くヨーロッパ、オセアニアやアジアでもゾンビ映画は制作された。『ショーン・オブ・ザ・デッド』(イギリス)、『ブレインデッド』(ニュージーランド)、『新感染 ファイナル・エクスプレス』(韓国)『カメラを止めるな!』(日本)など出色の出来である。

  さて、多くのポップカルチャーに登場するゾンビだが、ゾンビ愛好家の諸氏はゾンビには主に2つのパターンが存在することにお気付きのことだろう。「黒魔術型ゾンビ」と「ウィルス感染型ゾンビ」である。

  黒魔術型ゾンビはブードゥ教に由来するオカルティックな方法で生み出されるゾンビだ。ゾンビ映画の元祖『恐怖城』は明確に黒魔術型のゾンビである。ブードゥのやり方に従い、ゾンビパウダーでゾンビが生み出されている。『恐怖城』がそれほどのフォロワーを生み出さなかったためか、黒魔術型ゾンビはポップカルチャーにおいてはどちらかと言うと少数派である。

  最近の作品だと映画化もアナウンスされているアニメ『ゾンビランドサガ』は今時珍しい黒魔術型ゾンビである。

  ウィルス感染型ゾンビと違い、同作に登場するゾンビ・アイドルグループ「フランシュシュ」のメンバーは全員自我があり、山田たえ以外は会話による意思疎通も可能である。ブードゥに由来する古典ゾンビとの違いは、そこに不老不死の仙薬を発見したとされる徐福伝説の要素が加わっていることだ。徐福は秦の始皇帝時代の中国の人物だが、後に日本(現在の佐賀県あたり)に渡ったとの伝説がある。伝説では徐福は金立山(佐賀市)山頂で仙人に会い、不老不死の薬草を手に入れたとされている。これはフロフキといわれ、現在でも金立山に自生している。  

  徐福来日伝説はアニメ化もされた人気マンガ『地獄楽』でも元ネタになっている。他、古典的な物として映画『死霊のはらわた』も黒魔術型ゾンビに分類できる。

  もう片方のウィルス感染型ゾンビだが、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』『ゾンビ』以降のゾンビは大半がウィルス感染型ゾンビである。こちらはモダン型ゾンビと言い換えてもいいだろう。

マックス・ブルックス(著)『ゾンビサバイバルガイド』

  大ヒットゲームシリーズ『バイオハザード』はじめ、TVシリーズ『ウォーキング・デッド』も人気コミック『アイアムアヒーロー』も冒頭に名前を挙げた『ゾン100』も古典的ゾンビ映画『バタリアン』も『ショーン・オブ・ザ・デッド』も『ブレインデッド』も『新感染 ファイナル・エクスプレス』もすべてウィルス感染型ゾンビである。

 この2種類のゾンビについて、ゾンビの大量発生から生き残る方法を真面目に検証したマックス・ブルックス(著)『ゾンビサバイバルガイド』でその特徴がまとめられている。著者のブルックス氏はゾンビ映画『ワールド・ウォー・Z』の原作者でもあり、ゾンビの専門家と言っていい存在だ。(『ワールド・ウォー・Z』はウィルス感染型ゾンビ)
 

   同書には災害から生き残るための知恵も含んでおり、興味のある方はご一読いただきたい。さて、人から理性を消失させ、凶暴的で食欲だけが残存したモダン型ゾンビを生み出すゾンビウィルスだが、果たしてそのようなウィルスは存在し得るのだろうか?

リック・エドワーズ、マイケル・ブルックス(著)『すごく科学的 SF映画で最新科学がわかる本』(草思社)

    リック・エドワーズ、マイケル・ブルックス(著)『すごく科学的 SF映画で最新科学がわかる本』はゾンビ映画『28日後…』を例に、「そもそもウィルスとは何か?」「映画のように人を凶暴化するウィルスはあるのか?」を論証している。新型コロナウィルスCOVID-19による騒動を経験した今の時代を生きる読者諸氏には色々気づきの多い一冊だろう。同書では複数のウィルスを合成すれば『28日後…』に登場するレイジ・ウィルスに似たものを作ることは「絶対に不可能というわけではない」と結論付けている。恐ろしい話だ。

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