【若林踏の文庫時評】『このミス』1位続編の本格ミステリや、現代を撃つ犯罪小説など注目の3冊

若林踏の文庫時評

タフなヒーローが華麗に謎を解く私立探偵小説、再び。
リチャード・デミング『絞首台のある庭 私立探偵マニー・ムーン』(田口俊樹訳、新潮文庫)は片足が義足の私立探偵マンヴィル(マニー)・ムーンが活躍するシリーズの長編第一作だ。2025年に刊行された中短編集『私立探偵マニー・ムーン』(同)は宝島社の『このミステリーがすごい!2026年版』の海外編第1位に輝いた。
1940年代後半から50年代前半に米国で書かれた私立探偵小説が2020年代の『このミス』で1位を獲得するのは驚いたが、同時に深く納得もした。元ボクサーで腕っぷしの強いマニー・ムーンがタフガイの魅力をたっぷりと見せつける傍らで、本格謎解き小説に出てくる名探偵の如く切れ味鋭い推理で事件を解決する。この私立探偵小説と謎解き小説の絶妙なブレンドが現代日本の読者にとって新鮮なものとして受け止められたのではないだろうか。
『絞首台のある庭』でもその魅力は堪能できる。命を狙われているらしい遺産相続人の用心棒を引き受け、マニー・ムーンは富豪のローソン家の屋敷へと足を踏み入れる。イギリスの古典探偵小説を思わせる舞台に一人称私立探偵小説のヒーローという取り合わせが楽しい。更にこのシリーズならではというべき謎解きもしっかり用意されており、推理の妙を味わいたい読者も満足させてくれる。

<私立探偵マニー・ムーン>シリーズを刊行する新潮文庫といえば、毎年夏に開催している「新潮文庫の100冊」。2026年はこの書店フェアが始まって50周年に当たるという事で、記念作品として『プレゼント』というアンソロジーが発売された。参加作家は伊坂幸太郎、江國香織、恩田陸、梨木香歩、町田そのこ、宮部みゆき、米澤穂信の七名で、「夏」をテーマに各作家が書き下ろした短編が収められている。それぞれの持ち味が発揮された多彩な読み味の短編が揃っているのが良いが、読んで唖然としたという意味では宮部みゆきの「真実のトランク」を強く推しておきたい。

月村了衛『半暮刻』(双葉文庫)は少し前に世間を騒がせた“半グレ”をテーマにした犯罪小説風に始まるが、やがてその枠には収まりきらないスケールを持つ社会批評の小説へと発展していく。単行本刊行時には日本の状況を鋭く射貫くものだと感じたが、それから3年が経った2026年現在も変わらない。月村は今年刊行した『テロル』(集英社)という小説でも『半暮刻』とは別のアングルから現代日本の痛ましい姿を捉えようとしている。月村了衛は現実を容赦なく突き付ける小説家だ。
■書誌情報
『絞首台のある庭:私立探偵マニー・ムーン』
著者:リチャード・デミング
翻訳:田口俊樹
価格:990円
発売日:2026年6月24日
出版社:新潮社(新潮文庫)
『プレゼント』
著者:伊坂幸太郎、江國香織、恩田陸、梨木香歩、町田そのこ、宮部みゆき、米澤穂信
価格:825円
発売日:2026年6月24日
出版社:新潮社(新潮文庫)
『半暮刻』
著者:月村了衛
価格:1,078円
発売日:2026年7月8日
出版社:双葉社(双葉文庫)



























