「生成AI使用疑惑」でイラストレーターが制作工程を公開 ”AI警察”にクリエイターはどう向き合うべき?

”AI警察”にクリエイターはどう向き合う?

 ライトノベル『スレイヤーズ』などのイラストで知られる、イラストレーターのあらいずみるいが、あろうことかX(旧Twitter)で「イラストをAIで制作したのではないか」と突っ込まれ、8月15日、その制作工程を自身のXにアップする事態になっている。

あらいずみるいがイラストを描いた『スレイヤーズ』の表紙


  もちろん、あらいずみるいはAIを使用していない。制作工程を見てもわかるように、すべて自身で描いているのだ。しかし、こうした“AI警察”とでもいうような、心ない人々の指摘がイラストレーターを困惑させる事態は相次いでいる。あらいずみるいは今回の件でまったく非がないにもかかわらず、「本をお手に取ってくださった方、楽しんでくださった方。ご心痛をおかけしておりましたら本当にごめんなさい」とファンに謝罪しており、改めて現代のSNSが抱える問題が浮き彫りになっている。

  今回、あらいずみるいが疑惑をかけられたのは、コミックマーケットで頒布した同人誌の表紙絵であった。これを見たあるXのユーザーが8月13日に、「あらいずみるい、AI墜ちしただろう絵でAIだと目立つところに明記しない感じになっていて心底残念」とポスト。そして、「昔の絵柄のままだと目立てない。目立ちたい」「流行の絵柄をリスペクトして学ぶこともしたくない」「だから盗用AIに手を出す。目立つために明記しない」「これ結構エグい思考回路だと思うんすよね」と、憶測でポスト。結果、大炎上してしまっている。

  その後、このポストを行った人物は、あらいずみるいが制作工程をUPしたことを受け、15日にXを更新。「こちらのイラストではAIは一切使っていないと解釈して大丈夫なんすかね? でしたら自分の邪推が間違ってたので非常に申し訳ないツイートをした反省と、先生が正式にAIを否定した事実に感謝を」とポストした。しかし、この書き方だとさらに炎上しそうな勢いだが……(実際に炎上している)。

  あらいずみるい自身は、普段とは違う絵柄になった理由についてこう言及している。商業の仕事ではできないことや、普段とは違う塗り方などに挑戦した結果であり、同人誌だからこそ楽しみながら追求したのだという。そして、制作工程を見たファンは改めて、あらいずみるいの見事なテクニック、そして大御所でありながら常に挑戦心を忘れない姿勢に驚かされ、強いリスペクトの念を持つことになった。

  おそらく、ベテランのイラストレーターでもAIのイラストをUPしている事例が多いため、少しでも大御所の絵柄が変わると、今やなんでもかんでも「AIだ」と突っ込むXユーザーがいるのだろう。しかし、こうした思い込みによる攻撃はもちろん誹謗中傷に当たるし、なによりイラストレーターの創作意欲を削ぐことに繋がらないか、筆者は心配である。実際、盗作疑惑がかけられて(もちろん濡れ衣なのだが)筆を折った漫画家、イラストレーターを知っている。

  AIの議論は過渡期の段階にある。急速に進化するAIに対し、法整備やルール作りは追いついていないし、戸惑いの声が多く聞かれる。また、AIを使用する側にもモラルがない例も多く、それを指摘するAI警察にもモラルがない例が目立つ。そして、SNSの誕生によってクリエイターとの距離が近くなった。こうした様々な要因が、AIと無関係のイラストレーターが中傷される問題に発展している。

  それにしても、こういった騒動が今後続いてしまうと、イラストレーターはいちいち制作工程をアップしなければいけなくなってしまうのだろうか。ベテランはまだしも、イラストの新人賞などの応募規定にはそうしたルールが設けられる可能性が高い。AIを完全に見抜く方法はなく、性善説にも限界があるのは事実であるためだ。しかし、あまりにルールを厳格に運用しすぎると、若いクリエイターが応募するハードルが上がってしまうのではないか……などなど、心配もある。

  今後、AIとイラストの問題はどうなっていくのだろうか。引き続き注視していきたい。

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