滝沢カレン「みなさまの脳を通りすぎることができたら、それだけで幸せ」 初の短編小説集『馴染み知らずの物語』を語る

滝沢カレン、文字を書くことの喜び

文字は絶対に、自分を許してくれる

――もともと滝沢さんは、文章を書くのがお好きなんですよね。

滝沢:大好きです。話すことって一秒で終わっちゃうけど、書いておけばその一行は一生残るじゃないですか。書くより話すほうがわかりやすい、って人もいると思うんですけど、私は手紙や作文など文字のほうが自分を表現しやすいなって昔から思っていました。あと、文字は絶対に、自分を許してくれるから。

――自分を許してくれる?

滝沢:はい。クッションみたいに私を受け止めてくれます。自分の書いた文章をあとになって読み返したとき、文字が笑いかけてくれるような気持ちになるんですよね。なんていうんだろう、絶対的な私の味方って感じがする。自分で書いたんだから、あたりまえかもしれないけど、このたくさんの文字がそのときの私を支えてくれたんだって思うと、心強くなるんです。あと、文字って自由じゃないですか。

――自由。

滝沢:子どもの頃から、私は人見知りの恥ずかしがり屋だったから、言いたいことをうまく言えないことが多かったんです。誰かにペケ(×)をつけられるかもしれないし、傷つけちゃうかもしれない。でも文字は、私だけのものだから、誰にも怒られないし、否定もされない。さっき、物語の展開がジャンプするって言ってもらいましたけど、小さい頃から私は頭のなかでいろんなジャンプをさせるクセがあるんですけど、それも文章なら笑われたりしない。自分だけの世界が、文字のなかで守られている気がするんです。

――じゃあ、小説も誰かに向けてではなくて、自分のために書いている?

滝沢:そうですね。モデルのお仕事のときはやっぱりカッコよくみられたいと思うし、テレビのお仕事のときは、みんなに楽しんでもらいたいと思う。だけど『馴染み知らずの物語』を書いているときは、誰かにどう見られようとか、全然考えていませんでした。もちろん、読んだ人がおもしろがってくれたらいいなあ、とは思いますが、私自身を着飾って前に出るのとは違って、表舞台に躍り出るのは文字たちじゃないですか。文字は、絶対的に素敵なものだと信じているので「あとは任せた、行っておいで」という気持ちです。

――5年間も連載を続けて、畑を耕すのもかなり慣れたのでは。次は、ゼロから物語を書いてみたいと思ったりは。

滝沢:まだまだ、とんでもないです。今は連載を続けていくことだけで精いっぱい。ただ……いつか、絵本を書いてみたいなとは思います。もちろん、絵は別の方にお任せしないといけないけど……。短い文章で上手に伝えられたことがないので、今はまだ難しいと思いますけどね。でも絵本の、優しく温かい言葉たちが大好きで。子どもの頃に大好きだった絵本を、今も無性に読みたい気持ちになることがあるので、いつか挑戦できたらなあと。

――ちなみにどんな絵本が好きだったんですか?

滝沢:『はじめてのおつかい』(林明子)ですね。あと、同じ方が描いた『こんとあき』も。クレヨンで描いたみたいなぬくもりのある絵がすごく好きなんです。ああいう絵に寄り添う言葉を自分でも書けたらなあって思います。あと、『ばばばあちゃんのアイス・パーティ』も大好きだったな。食卓にカラフルな氷やフルーツがいっぱい敷き詰められていて、みんなで庭で食べるんですけど、大人になった今もその光景を想像するだけで胸がキュンとします。

――今も絵本を読み返したくなるのって、どういうときなんですか。

滝沢:旅したくなるときかなあ。無性に遠くに行きたくなる、あのときの感覚にすごく似ていて。毎日寝る時間になると、朝に何をしたのか思い出せないくらいくたくたになって、毎日が過ぎ去っていくだけみたいなときに、絵本が恋しくなります。そういうときは、あの絵本ってどんなのだっけ、とスマホで検索して表紙を観るだけで癒される。

――本を読むことも、滝沢さんにとっては旅と似ている?

滝沢:かなり似ていますね。むしろ、現実に旅をするより遠くに行ける気がする。飛行機で地球の裏側行くよりも、小説を読んでいるときのほうが、魂は遠くにいっている感じがします。もっといえば、宇宙にも行けちゃうし、銀河系から離れることもできるんじゃないかなと思うと、本を読むのってものすごく広いことだなあと思います。自分で書くときは、読む人に理解されないと困るので、現実と夢のあいだをいったりきたりして、ちょうどいいところを探すようにしていますけどね。自分から離れすぎず、でも近すぎない、どこかにあるかもしれない世界を描けたらいいな、って。

――『馴染み知らずの物語』を読むと、「こんなふうに自由に発想していいんだ!」と読む人も想像力を刺激されて遠くへいける気がします。

滝沢:そう言ってもらえると嬉しいです。こんなふうに書いて、作者様が怒らないだろうかと、不安になったりもするんですけれど、自由自在にやらせてもらっているぶん、読んでくださる方にも最高の自由を満喫してもらえたらなと思っているんです。

――まえがきとあとがきに、全部読まなくてもいいし、読んだあと数時間後に忘れてくれてもいい、と書いていますね。

滝沢:極論ですけど、それくらいの気持ちです。一瞬でも、みなさまの脳を通りすぎることができたら、それだけで幸せ。どうぞ、自由に楽しんでください。

■書籍情報
『馴染み知らずの物語』
滝沢カレン 著
発売日:6月20日
価格:¥1,056
レーベル:ハヤカワ新書

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