『クロエマ』は“現代の隔たり”を言語化する物語? 「逃げ恥」海野つなみ最新作の魅力に迫る

『クロエマ』は“現代の隔たり”を言語化する

 ドラマ化もされ大きな社会現象となった人気漫画『逃げるは恥だが役に立つ』の海野つなみによる、10年ぶりの新シリーズ『クロエマ』の第1巻が6月13日に発売された。ジェーン・スーが“平熱シスターフッド”と評したことでも話題の本作だが、その魅力はどこにあるのかーー。

 どうして私たちは辛いことがあると占いに頼るのだろう。『クロエマ』の“エマ”こと、江間宵(エマショー)を見てついそう思ってしまった。一説によると、日本は欧米に比べてカウンセリング文化が盛んではないため、不安を感じるとつい占いに頼りたくなる傾向にあるらしい。

 その背景には、日本はそもそもケアを受ける、あるいはケアを必要とする人に対して偏見があることや、悩みを言語化する習慣が少ないから.......など、“カウンセリング文化が盛んではない”という言葉で片づけられないほどの課題が眠っているかもしれない。

 軌道に乗っている今の状態をさらに高めるために占いを利用するのは、ある種の“景気付け”のようなものだから、そういったルーティンを取り入れるのは面白い試みだと思う。けれど、いやどう見ても今頼るのは占いではないだろう!という時に占いにすがる、それがエマショーなのだ。

 元々は職場の彼氏と同棲していたエマショー。けれど、会社が倒産した挙句、彼が浮気&デキ婚し、家から追い出されることに.......。頼れる家族もおらず、住所不定の彼女は文字通り路頭に迷う。そうして今夜の野宿場所にと選んだ場所が『クロエマ』の“クロ”こと占い師・黒江神名(クロエ)の豪邸の入口だった。

 自宅の前に寝そべっている正体不明の女性・エマショーをみて、最初は警察に連絡するつもりだったクロエだが、トイレを貸してほしいと言われつい家にあげてしまう。そして、クロエが占い師だと知ったエマショーはぜひ占ってほしいと彼女に頼み込むのだ。「当たらなくても構いません...希望が欲しいんです」と。

 仕事はおろか住む場所、今日明日生きていくためのお金もない。となれば、エマショーが本来頼るべきは占いではなく行政の支援、あるいはそれを受けるための情報のはず。そんな彼女を見ていると冒頭で述べた、つい占いに頼りたくなってしまう現象の切実さを痛いほど実感してしまう。だが、このエマショーのズレを正してくれるのが、なんと他ならぬ占い師のクロエなのだ。

「そもそも占いって過去や現在は当たるのよ もう確定してるから でも未来はそんなに当たらない それはなぜか 未来はこれからの行動で変わっていくから 確定した未来なんてないの」
ーー『クロエマ』1話より

 占う前にこうエマショーに告げるクロエ。そんな彼女の占いは、クロニクルカードというまるでタロットカードのような架空の占術を用いて行われる。未来を予言するのではなく、あくまでも暗示。そして、占った後にクロエはエマショーに生活保護の申請方法や窓口でのマニュアル対策といった、彼女の未来を変えるために本当に必要なものを授けるのだ。それも親切心でも同情でもなく「相談料もらったから」と言って。

 こうしてひょんなことから出会ったエマショーとクロエだが、この後はクロエの占い業や家事をエマショーが手伝うという形で二人の交流は続く。そんなクロエの占いを頼るのは、エマショーのように見過ごされている貧困に悩む女性のほか、母やママ友といった一人の女性としてのアイデンティティに揺らぐ者、男女の関係に悩む者.........つまり、現代の隔たりを象徴するような者たちだ。

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