『スキップとローファー』のキャラクターはなぜ共感を呼ぶのか キラキラした中に描かれる“影”のリアリティ

『スキップとローファー』はなぜ共感を呼ぶのか

※本稿は『スキップとローファー』のネタバレを含みます。

 「マンガ大賞2020」第3位に選ばれるなど、連載開始直後から注目を集めてきた『スキップとローファー』。2023年4月から本作を原作とするアニメがスタートし、さらに注目度が高まっている。本作はスクールライフコメディとして高校生たちの学校生活が描かれる作品で、SNSでは登場人物への共感の声が多く聞かれる状況だ。本稿では、なぜ本作が多くの共感を呼んでいるのか考察したい。

 地元にある中学校を卒業し、石川県の小さな町から東京の進学校へ入学した岩倉美津未。壮大な目標を抱きひとりで上京してきた美津未は、登校初日に出会った志摩聡介など、個性豊かなクラスメイトと仲を深めていく。

 美津未と関係を築くキャラクターの多くは対照的な顔を併せ持つ。たとえば美津未のクラスメイト・久留米誠は初登場時に女子からの人気が高い志摩や、ギャルのような雰囲気を感じる村重結月を敬遠していた。他者を雰囲気や見た目などの表面的な要素で判断する誠であるが、彼女には友人をつくりたいという思いもあり、結果として美津未や志摩たちと関係を築いていくこととなる。

 そんな誠とは対照的に、初登場時の江頭ミカは美津未たちを見下すような様子が見られた。美津未本人も「雑に扱われた…気がする」と思い浮かべるような対応をしたり、その一方で志摩に近づくために美津未との交流を深めようとしたりなど、物語序盤では少し嫌な一面が際立つように描かれていたと感じる。

 しかしコミックス第2巻「Scene⑧チクチクの個人練習」でミカは不意にぶつかってきた上級生に怒りを覚えているなか、ぶつかった上級生を注意した男子生徒・福田に感謝を抱く美津未の姿を目にする。

 太らないよう食べたいものを我慢したり、キラキラとした部活に入ったりなど、これまでミカは自分が選ばれるためにさまざまな努力をしてきた。同じ事象を目にして怒りを覚える自分と感謝を抱く美津未を比べ「私を一体誰が選ぶ?」と嘆いたミカの台詞は、彼女の内側にある影が垣間見えたシーンであっただろう。

 本作の作者・高松美咲氏はスクールライフコメディである本作を手掛けるなかで「Scene⑧チクチクの個人練習」のような暗いエピソードを描くか迷いつつ、ミカのような生徒を無視して学生生活を描くことは嘘だと思う気持ちがあったという。そしてミカの暗い部分を描いた本エピソードは読者からの反響がよかったことも明かした(参考:『週刊マンガ獣』#33 【特別ゲスト】高松美咲先生【後半】)。

 高校生たちのキラキラとした友情と共に、自身の内側に秘めた暗さも描かれる本作。高校生たちのキラキラとした輝きと、現実味のある影が鮮明に描かれているからこそ、本作は多くの読者から共感を得ているのであろう。

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