現役女子高生17歳のマンガ家が描く『少女事変』 本人に聞く、学業と両立しながらの創作の裏側がスゴかった

現役女子高生マンガ家に聞く創作の裏側

 2022年12月~2023年4月まで、講談社の少女マンガ・女性マンガアプリ「Palcy(パルシィ)」で連載されていた『少女事変』。なんとその作者・日向まれ氏は弱冠17歳、現役高校生だ。学業と並行しながら制作された本作は、美麗な筆致で綴られる鮮烈なノワール・サスペンスとして話題になった。

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 主人公は殺し屋として生きて来た少女・フェナ。次のターゲットはカフェの店長であるイヴという男だった。ある夜、イヴを待ち伏せし路地で襲うが失敗し、逆にカフェの店員にスカウトされてしまう。こうして暗殺対象とカフェで一緒に働くことになったフェナ。殺しの方法しかしらなかった彼女は次第に日常の温もりを取り戻していくがーー。

 新進気鋭の若き才能が光る初連載作を一冊にまとめた『少女事変』電子書籍版が本日2023年6月13日、発売となった。そこで今回は作者の日向まれ氏と担当編集の白土氏にインタビューを敢行。本作誕生の経緯や学業との創作の両立、若手作家の育成環境まで、じっくり話を聞いた。(ちゃんめい)

17歳で連載デビューできた理由

――日向先生は現役女子高生ですが、どのようにデビューに至ったのか、これまでの経歴から教えてください。

日向:13歳の頃に、「なかよし」の新人賞やまんが賞への投稿を始めたのですが、ありがたいことに投稿1作品目で担当編集さんがついて。そこから4作品ほど経て2022年に読み切り『羊と狼』で「なかよし」本誌デビューをしました。

――投稿1作品目で担当編集がつくのはもちろん、本誌デビューのスピード感から、期待の新人として編集部から大きな期待が寄せられていたことがうかがえますね。

白土:そうですね。新人作家さんは、本誌デビューした後に何度か読み切りに挑戦する場合も少なくないのですが、日向先生の場合は『羊と狼』の時点でしっかりとした実力を感じ、編集部としても日向先生に非常に期待をしていたので、『羊と狼』の後に短期連載の相談を持ちかけました。

日向:短期連載のお話をいただいた時はすごく嬉しかったですが、本当にできるのかな?って、正直不安の方が大きかったですね(笑)。

――編集部としては具体的に日向先生のどんな点に惹かれたのでしょうか?

白土:新人の作家さんは、絵は上手いけれど話はもう少し努力が必要なケースや、逆のパターンもありますが、日向先生は作家さんに必要な力を五角形で示すとしたらそれぞれが安定して高い印象です。絵はもちろん、キャラクター、構成力、セリフもシーンも完成度が高くて……読者の方も知らずに読んだらまさか17歳の作家さんの作品だとは思えないんじゃないでしょうか。『少女事変』の連載企画書を拝見させていただいた時も、初期段階から世界観はもちろんキャラクターがしっかり出来ていて、改めて驚かされました。

「自分の境遇を悲観してほしくない」初連載作品に込めた想い

――『少女事変』は初連載にして非常に重厚な作品ですが、本作の着想のきっかけはなんですか?

日向:連載デビューまではずっと恋愛メインの作品を描いてきたから、今回は家族愛や友情といったまた違った愛の形を描いてみたかったんです。あと、せっかく連載の機会をいただいたので、今まで描いてきた少女漫画のイメージから一変したものに挑戦したいなと。それで、“殺し屋”のようにより重いというか、殺伐とした雰囲気が出る要素を入れてみました。

日向まれ『少女事変』(講談社)より
日向まれ『少女事変』(講談社)より

――確かに“殺し屋”という設定柄、作中には緊迫した空気が漂いますが、時にはフェナとイヴの会話劇が可愛くて思わずほっこりしてしまう……このバランスがとても絶妙だなと感じました。

日向:実は一番最初の頃は今よりもさらにシリアスだったんです。担当編集の白土さんからも、もう少し読者が和むような仕掛けがあった方が良いのではないか? とアドバイスいただきまして。そこで全体のバランスを意識するようになって、会話劇を入れるようになりました。

――会話劇のシーンではいつも暗いフェナが明るい笑顔を見せたり、照れたり、この表情の変化も魅力的でした。

日向:できるだけ同じ表情の顔が出ないようにしたいと思って頑張っていたので嬉しいです!キャラクターの喜怒哀楽の表情は、眉毛とか口などのパーツを実際はここまでは動かないだろうな……ってくらい大きく動かして描くのがポイントです。

――連載中に苦労した思い出がありましたら教えてください。

日向:リアンというキャラクターがいるのですが、彼がすごく複雑なんですよね。殺し屋・フェナにとっての長年のボスであり、でも実は大きな秘密を隠している。キャラクター性もさることながら、最終的にフェナとリアンの関係にどうやって決着をつけようかと。彼には全体的に苦戦しましたね。

日向まれ『少女事変』(講談社)より
日向まれ『少女事変』(講談社)より

――本作にはどんな想いが込められていますか?

日向:連載当初は、とにかく自分の好きなものや挑戦してみたい要素を作品に詰め込んで、それで作品が面白くなったら良いなと思っていました。だけど、フェナを描いていくうちに、“自分の境遇を悲観してほしくない”って。そんな強いメッセージが自分の中に芽生えてきました。私自身まだ17歳ですが、実は過去に立ち直れないくらい辛い経験をしたことがあって、その時に悲観しているだけじゃ何も変わらないなと自分で気付いたんです。だから、フェナのような辛い境遇の主人公を描くなら、当時の自分の経験というかその時に感じた想いを彼女に詰められたらと。途中からはそんな想いを込めながら描いていましたね。

「物語としての読みやすさを意識する」打ち合わせの裏側

――『少女事変』連載中はどれくらいの頻度で打ち合わせをされていたのでしょうか。また担当編集として助言されたことなどありましたら教えてください。

日向:隔週木曜日更新だったので、プロットに関しては打ち合わせをしたらその1週間前後で修正版を送る、その1週間後にネームを……というスケジュール感でこなしていましたね。ネームの作業になると、コマ割りやページの使い方など本当に教わることが多くて、もう毎回の打ち合わせが学びの時間でした。

白土:日向先生が作ってくださるお話はあまり破綻がないんですよね。しっかりと整合性が取れているから、日向先生の提案を大きく変えるということはなくて、出してくださった一つ一つの情報をどのように配置していけば物語として読みやすくなるのか? という打ち合わせが多かったです。

――すごくスムーズに打ち合わせをされていた印象を受けますが、特に印象的だった出来事はありますか?

白土:最終話のネーム打ち合わせです。フェナの首輪が外れるシーンがあるのですが、実は最初はなかったんですよ。それで、もっと印象的なシーンにしてほしいですと日向先生に伝えたら首輪が外れるという演出を提案してくださったんです。これは間違いなく最終話の象徴的なシーンになったと思いますし、編集からの要望にすごく良い形で返して下さったという点でも記憶に残っている打ち合わせです。

日向まれ『少女事変』(講談社)より
日向まれ『少女事変』(講談社)より

日向:首輪が外れるシーンは、初期のネームを送る前からふわっと構想はあったんです。でも、抽象的すぎるかな? と思ってあえて入れなかったのですが、こうして打ち合わせを重ねることで実現できて、しかも褒めていただいてすごく嬉しかったです。

――日向先生は現役の高校生でいらっしゃいますが、学業との両立はどのように工夫されていたのでしょうか。

日向:学校が終わったらすぐに帰宅して、そこから夕飯の時間まで漫画を描いて、その後は寝るまで作業する……というのが平日のスケジュールですね。休日も朝から起きて、ちょっとダラダラしてしまう時間もありますが一日中描いています。アシスタントさんもいないので、やっぱり描き続けないと間に合わないんですよね。あと、テスト期間中になるとさらに時間がないので、いかに作業時間を集められるのかが重要になってきます。短期集中型と言いますか(笑)、試験勉強はテスト1週間前に詰め込んだり、とにかく作業時間を捻出するようにしていました。

白土:日向先生は絶対に締切を破らないんですよ。新人はもちろんベテランでも締切厳守は難しいこともあるので、本当にすごいです。

考える、とにかく描く……独学で作家を目指すには

――本記事の読者の中には、日向先生のように高校生でマンガ家デビューを目標にされている方もいらっしゃるかと思います。先ほど白土さんから“漫画家としての能力が全体的に安定している”と称賛されていましたが、そういった作家としてのスキルはどのようにして育まれてきたのでしょうか。

日向:私としては、ストーリーも構成もセリフもまだまだだと思っていますし、いつも悩んでいるのですが、強いて言えば漫画に限らず、小説や映画、とにかく色々な作品を読むのが一番大きいかなと思いますね。絵に関しては、小5~6年生の頃に本腰を入れて描き始めたのですが、もうとにかく描く! モチーフを観察したり、時には参考書を読んで構造を勉強したり……とにかく考えながらスケッチブックいっぱいに描き続けていましたね。

――誰かに師事したり、教室に通うこともなく全て独学ということでしょうか?

日向:そうですね。周りにマンガについて教えてくれる人は誰もいなかったので、わからないことはひたすらネットで検索して調べていました。

――現在のマンガ家活動に役立っているなと思う、幼少期の経験はありますか?

日向:強いていば、考えるクセでしょうか。幼い頃から考えることが好きで、常に頭の中にアイディアがある状態なんです。例えばその日読んでいた作品に影響されて、脳内でキャラクターが勝手に喋り出したり(笑)。

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