『ヒロアカ』ルーツ作品『テンコ』との関連性 カリスマ・死柄木弔の本名に宿る、作者・堀越耕平の思い

『ヒロアカ』ルーツ作品『テンコ』との関連性

 現在、物語の「終章」が盛り上がっている漫画『僕のヒーローアカデミア』。そこで中心人物の1人となっているのが、敵(ヴィラン)たちを率いるカリスマ的存在・死柄木弔だ。そのキャラクター像は、作者・堀越耕平の漫画家としての原点(オリジン)にも関わっている。

 まず振り返っておきたいのが、『僕のヒーローアカデミア』の連載開始から遡ること7年、『赤マルジャンプ2007 SUMMER』に掲載された『テンコ』という作品だ。

 同作は、堀越にとってデビュー作となる短編読み切り。暴力が横行する戦国時代的な世界を舞台に、“テンコ”という能力者の悲哀と決意が描かれている。自身の能力によって母親を失ったテンコは、世界にはびこる戦いの連鎖を断ち切っていく。

 『僕のヒーローアカデミア』の読者ならピンとくるだろうが、死柄木の本名は志村転弧(テンコ)であり、白髪で顔を隠した見た目も両者に共通している。さらにテンコは、触れたものを崩壊させる能力の持ち主なので、瓜二つの設定と言えるだろう。

 実際に単行本23巻の補足ページにて、堀越はテンコが死柄木のモデルであることを明言していた。その理由については、「自分の集大成というか、今まで描いたの全部乗っけてぶつけてしまえ!」という気持ちで連載を始めたからだという。

 だが、テンコの存在はたんにスターシステム的なキャラクターの流用ではなく、もっと深い部分で堀越の作家性に関わっているように思われる。

堀越耕平が2人の「テンコ」に込めた思いとは

 テンコと死柄木はキャラクターの設定だけではなく、「崩壊」の能力によって運命の歯車が狂っていくところも似ている。しかしそれぞれが歩む運命は、微妙に異なっていた。

 一方のテンコが生きるのは、人斬りが横行する荒廃した社会。そこで人々を支配する刀という暴力に対して、反逆を企てる人物だった。その一方で死柄木は、ヒーローの力によって平和が保たれる社会で、その“ヒーロー社会”を標的とする。

 いずれも自身が生きる社会の構造自体に反逆しているが、生まれた環境によってヒーローとヴィランという真逆の存在として描かれているのだ。ここから、環境によって人は正義にも悪にもなるという皮肉を読み取ることもできるかもしれない。

 また表面的な話でいえば、そもそも堀越の自画像からして意味深だ。単行本のそでに描かれていることでお馴染みの自画像は、「手」のモンスターだが、言うまでもなく死柄木のキャラクターデザインにも「手」が深く関わっている。

 2017年に行われた米津玄師との対談では、自画像のデザインについて「単純に『手』を描くのが好きだから」と説明されていたが、これだけ要素が重なると深読みしたくなってしまうもの。デビュー短編のキャラクターをモデルとしつつ、「手」を象徴的にあしらった死柄木は、ある意味では堀越に最も近いキャラクターではないだろうか。

 そうした背景を踏まえると、死柄木と緑谷出久の戦いは、作家としての過去と現在のぶつかり合いであり、新たな道を切り開くための儀式のようにも見えてくる。この先にどんな結末が待ち受けているのか、最後までしっかりと見守りたい。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる