「諦めたらそこで試合終了だよ」だけじゃない 『SLAM DUNK』名将たちの心に響く名言集

『SLAM DUNK』名将たちの心に残る言葉

 先日、ABEMAの恋愛番組『今日、好きになりました。』を観ていて、とある女子高校生が男子高校生に「諦めたらそこで試合終了」という言葉を用いながら、片思いの相手に気持ちを伝えるシーンがあった。『SLAM DUNK』(集英社)の安西先生の名セリフが、10代の青春の1ページの中でも、多用されていることに、とても驚いた。

 映画『THE FIRST SLAM DUNK』が国内動員1000万人突破を記録し、韓国でも翻訳版が累計250万部(※参考:韓国で「スラムダンク」人気冷めず 累計250万部=国際ブックフェアでブースも)を記録しているという『SLAM DUNK』。本作が、それだけ世界中の多くの人々の人生に、実りを与えている。何年も前に、井上雄彦が息吹を吹き込んだキャラクターによって生まれたいくつもの名言が、今、多くの人々のリアルな物語を動かしている。

 今回、安西先生の名言とキャラクター造形について漫画評論家の島田一志氏に話を聞いた。

 「安西先生の『諦めたらそこで試合終了だよ』という言葉は、第8巻で三井寿に言う場面が有名ですが、第27巻の山王工業戦で桜木花道にも『諦めたらそこで試合終了ですよ…?』と同じようなことを言っています。実はこれって安西先生の決め言葉で三井や桜木だけでなく、書かれてないだけで、常に教え子たちには言っている言葉なんだろうなと思うんです。三井に対しても本気で伝えたと思いますが、あの一回限りではなくて、監督の信念なんだと思います。桜木たちの心情をリアルに書くのは、若い漫画家ならできると思うんですけど、井上先生は若い頃に書いてたはずなのに、大人である安西先生側の気持ちもしっかり描けていてすごいなと思いました」

 『SLAM DUNK』で選手たちを成長させてきたのが、ライバルの存在であり、また彼らを鼓舞してきたのが、彼らにとっての監督たちだ。安西先生の信念が込められた名言に匹敵する4人の監督たちの言葉を島田氏にあげてもらった。

「あいつも3年間がんばってきた男なんだ 侮ってはいけなかった」
田岡監督/陵南高校/第21巻

 「『SLAM DUNK』には名将と言われるドンと構えたクールな監督が多い中、 田岡監督は試合中の選手のプレーに対して一喜一憂するところがまず微笑ましいキャラクターです。県予選の最後の湘北高校VS陵南高校の試合で、木暮公延が終盤にシュートを決めたんですね。田岡監督は、レギュラーじゃない木暮が、湘北の弱みの1つだと捉えてたんですけど、彼が入れた後に、モノローグで反省する姿が描かれます。田岡が自分を反省してるのもなかなかいいんですけど、このシーンってすごく木暮のキャラを立てているんですよね。少し前のコマで三井が不良になって、バスケから離れていたからスタミナが持たなくなって『なぜオレはあんなムダな時間を……』と荒れていた時代を悔やむシーンがあります。その間、木暮は頑張ってたわけで、その明暗対比が上手いし、田岡監督が木暮を認めたことで、湘北の最強は5人じゃなくて、6人だったっていうのもわかるシーンです。そして、井上先生がおそらく、田岡監督に思い入れがあったのだと思われるのが、この試合が決まった瞬間の絵が、田岡監督のアップなんですよ。負けた側を描くとしても、仙道彰が悔しがってる顔にするはずなんですが、田岡監督が目を閉じる場面で終わるので、負けた側の監督の物語でもあったんだなって。田岡監督は敵側なので感情移入しにくいキャラなんですけど、本当はすごく良いやつだというのもわかります」

「オレは お前らが大嫌いだ なのになぜ… 負けちまえって気にならないんだ それは… お前らが 心底勝ちたがってることは知ってるからだ」
金平監督/豊玉高校バスケットボール部監督/第24巻

 「インターハイの1戦目で湘北が当たる豊玉の新旧2人監督のうち、現監督として出てくるのが金平監督です。豊玉は強豪だけど、もう1歩上に行けないところで伸び悩んでいて、選手たちは慕っている前任の北野監督のラン&ガンという超攻撃的スタイルを支持していますが、全国でさらに1つ上に上がるには、古いスタイルなんじゃないかということで、金平監督が変えようとするんです。選手と監督の間に壁があって、試合中も揉めるんですが、口論になった際に、金平監督が選手を殴ってしまうんですよね。でも、ちょっと感情的になってただけで、金平監督も選手たちを送り出した後、すごく後悔していて、その時にちょっと目に涙を浮かべながら選手たちを見て言うんですが、金平監督のキャラがすごく立った瞬間だと思いました。殴るところまでは多分、ステレオタイプの描かれ方なんですけど、金平監督は選手たちの状況や悲しみをちゃんと理解していて、選手も監督もただバスケが好きで、頑張っているというのを認めていたことがわかるシーンでした」

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