『SLAM DUNK』山王工業・松本が体現した「強豪校」のリアリティ “沢北がいなきゃどこでもエース”な男を分析
ロングランが続くアニメーション映画『THE FIRST SLAM DUNK』。5月25日には声優トークイベント上映会「COURT SIDE in THEATER」の第二弾が開催され、湘北高校メンバーを演じたキャストが集結した第一弾に続き、山王工業高校メンバーを演じた6人が登壇し、ファンの歓声を浴びた。6月3日から8日まで、その模様を収録した特別映像を併せて上映する企画が展開。湘北高校を迎え撃った最強チームに注目が集まる。
山王工業の強さに説得力がなければ、『SLAM DUNK』のクライマックスとなった一戦はあれほど盛り上がらなかっただろう。高校No.1プレイヤー・沢北栄治、不動の心を持ったキャプテンにしてゲームメイカーの深津一成、鋼の肉体にスピードや技術も備えた最強センター・河田雅史に加えて、根性と体力がずば抜けたディフェンスのスペシャリスト・一之倉聡、リバウンド王・桜木が覚醒するまで仕事をさせなかった“ポール”こと野辺将広、2m10cmというサイズと恐るべきパワーで将来を嘱望される河田の弟・美紀男と、それぞれに濃いキャラクターが並ぶ。ほとんど大学バスケのオールスターだというOBチームを事前に叩きのめしていたこともあり、その強さは強調され尽くしていたが、実際の試合の描写において、歴史ある強豪校の決定的な特徴とも言える「選手層の厚さ」を体現していたのが、6番の松本稔だ。
湘北高校との試合ではシックスマンとして起用された松本だが、三井寿を相手に縦横無尽のオフェンスを見せ、作中でそれほど強調した演出を受けることもなく、印象的なプレイを重ねていく。そのなかで、「あの6番/後半になってえらく目立つな」と、読者の思いを代弁したのが、観戦していた神奈川県王者・海南代付属高校。3年生の武藤正が「沢北がいなけりゃ/どこでもエース張れる男さ」と語り、山王工業の層の厚さを印象づけた。
登場機会が限定的なため、松本の細かなキャリアについては語られておらず、原作ファンは湘北戦の描写から、最強高校の裏エースについて考察を広げてきた。ブランクがあるとはいえ百戦錬磨の三井寿が「こいつうめえ……!!」と感嘆する能力。ドライブが鋭く、結果として桜木にブロックされたものの当然のようにダブルクラッチで相手をかわしており、テクニック/得点力はかなり高そうだ。ついでにルックスもなかなか美しく、“ずる賢い”という意味でのクレバーさを感じない立ち回りも好感度が高い。
一方で、ディフェンス面では不安も露呈している。三井の気迫に押されて湘北を乗せてしまったことは否めず、この試合で「すっぽんディフェンス」の一之倉にスタメンを譲っていることからも、チームでも攻撃面での評価が高いのだろう。原作ファンの間では「精神面が弱いのでは」という指摘も多く、「圧倒的強者」というイメージはないし、それほどフォーカスもされていないのになぜか印象に残る不思議なプレイヤーだ。
スポーツ漫画では一芸を持っているキャラクターが重宝されがちだが、松本のような「シンプルにうまい」プレイヤーがスパイスとして利いているのは、さすが『SLAM DUNK』と言いたくなる。活躍の機会は少なかったが、スピンオフが読んでみたくなるキャラクターのひとりだ。