立花もも厳選 シスターフッドや異色探偵、人間とゴリラの交流まで……GWに読みたい新刊小説
『憂鬱探偵』 田丸雅智 ワニブックス
重厚な作品に心をえぐりとられる読書もいいが、ときには、心底意味のないものに触れて癒されたい。そんなときにうってつけなのが本作。憂鬱な出来事の裏にひそむ世界の真実を暴き出す〝憂鬱探偵〟を描いた短編集だが、これがまあ、本当にどれもこれもしょうもないのである(褒めています!!!)。
電車のなかでやたらと足を踏まれるのはなぜ? レストランでいっつも自分の料理だけが忘れられて提供が遅いのはどうして? 大事なデータを保存せずに閉じてしまうなんてことが、こんなにたびたび起きるのはおかしい! 靴下がこうも頻繁に片っぽだけなくなることには、意味があるに違いない……。
いやそんなの、よくあることでしょ。意味なんかあるわけないじゃん。と普通なら思うだろう。探偵自身も、思っている。だが、なぜか無給のバイトを買って出るバイトの女子大生に押されて、そんな依頼を受けていくうちに、どの事象にも秘められた理由が存在することに気づいてしまうのである。この謎解きがまた、ありえないに決まっているんだけどちょっとありそうでおもしろい、絶妙なラインを押さえていて、ふふっと笑いながら読んでいるうちに、こちらの憂鬱も吹き飛んでしまう。不思議な余韻が心に残って、これからの日々で憂鬱なことが起きても、乗り越えられそうな気がする。続刊希望。
『ゴリラ裁判の日』 須藤古都離 講談社
人間並みの知能をもち、言葉を完璧に理解し、手話を駆使するニシローランドゴリラのローズが、夫(もちろんゴリラである)が射殺されたことに異議を唱え、人間相手に裁判を起こすという、これまたありえない設定の娯楽小説のように思われるが、こちらは気楽にかまえて読みはじめると大打撃を受けるので要注意。
人間との交流を重ね、人間社会の文化や情緒を学んでいくローズは、一夫多妻制があたりまえのゴリラ界では抱くことのなかった「嫉妬」の感情を想い人に対して芽生えさせる。人前に出ることが増え、ところかまわず排泄してしまう自分を恥じて、おむつをつけようとするのだけど、それだけじゃ恰好がつかないから、洋服を着たいと願うようになる。それを人は、「進化」や「成長」と見るだろう。だが本当に?
「私はゴリラではない。私は人間でもない。ゴリラと人間の合間で彷徨う何かだ」とローズが思う場面がある。世界に敷かれた当たり前の秩序、当たり前の正義に適合できない、どちらへ寄っても居場所を見出せない彼女の言葉が突き刺さる。それでもどうにか自分なりに生きていこうと見つけた夫を、人間を守るためとはいえ一方的に射殺されて、納得できるわけがない。
「正義や司法は人間が作り上げてきたんだ」という言葉も作中にはある。だがそもそも正義とは何か、人間とは何かというローズを通じて突きつけられる根源的な問いに、答えることのできる読者はいるのだろうか。