立花もも厳選 シスターフッドや異色探偵、人間とゴリラの交流まで……GWに読みたい新刊小説 

立花もも おすすめ新刊小説

 発売されたばかりの新刊小説の中から、ライターの立花ももがおすすめの作品を紹介する本企画。数多く出版されrた4月の新刊の中から厳選した今読むべき注目作品を集めました。(編集部)

『オール・ノット』 柚木麻子 講談社
オール・ノット

 シスター・フッドの物語は好きだけど、女同士の連帯をことさらに美しいものとして語られると首をかしげてしまうことがある。中高6年を女子校で過ごし、大学に入ってからの3年間は女子寮で暮らしていた身としては、そんな簡単なものじゃないだろうと言いたくなるし、どんなに仲のいい相手でもライフステージの変化によって距離が生まれてしまうさみしさも山ほど経験してきた。連帯し続けていたくてもできなかった。あんなに心が密接していたはずなのにわずかなボタンの掛け違いでもう手が届かない。そんな切ない痛みを諦めとともに抱いた経験をしたことのある女性は少なくないはずで、そんな人にこそ今作を読むことをおすすめしたい。

 主人公の真央は、奨学金を抱えながら生活費を稼ぐ大学生。孤立無援の苦しさからとげとげしていた彼女の心は、バイト先で出会った50代くらいの女性・四葉によって溶かされていく。かつては横浜・元町に名を馳せる一族の娘だった彼女は、財を失い、アパート暮らしとなった今も、心の豊かさを失わない。そんな彼女に感化され、真央も少しずつ生活を変えていくのだが、どんなに親切にされてもしょせんは他人。真央の人生をまるごと引き受けてくれるわけでもない。プレゼントされた宝石も大した値段にはならなかった。続く苦境に追いつめられた真央は、しだいに四葉との関係も途絶えさせてしまう。

 だからといって、女同士の連帯は夢幻だと言いたい訳じゃない。この小説もそんなことは言っていない。むしろ、逆だ。今、この場に、目に見える形でその連帯が残されていなくても、かつて心がつながり、手を取り合って、互いに救われた経験は、生きる糧となってくれる。一見、失敗に終わったように見える連帯も、その想いを託された誰かが、時を超えて別の誰かと繋がることもあるのだと、そうして人は、世の中は、少しずつ変化していくのだということが、本作ではきれいごとなしで描かれていく。ああ、私の読みたいシスター・フッドは、ここにあった。そう思える小説だった。

『あわのまにまに』 吉川トリコ KADOKAWA
あわのまにまに

 いったいこれはどういう物語なんだろう? どこへ向かっていくのだろう? と冒頭からハテナマークが飛び交う。だが、ちょっとよくわからないな、と読むのをやめたりしないでほしい。「そういうことだったのか」の連続で迎えるラストで味わう、言葉を失う衝撃を逃すのはとても、もったいない。

 第一章の舞台は2029年。祖母の通夜に参列する小学三年生の木綿(ゆう)の視点で語られる一族の人間関係は、非常に複雑だ。家出中だった23歳年上の兄シオンが久しぶりに顔を出したのはいいが、紫色のド派手なスーツに真っ赤なルージュを引いて、ところかまわず彼氏といちゃいちゃしている。どうやら彼は韓国から迎えた養子で、木綿の実兄ではないらしいのだが、その事情は私たち読者と同様、木綿も知らない。異父姉妹である木綿の母・いのりと妹の操のあいだに険悪な雰囲気が漂う理由も、いのりの結婚に祖母が反対していたらしい理由も、もちろん知らない。わからないことだらけである。

 その背景が、十年刻みで時をさかのぼることで、少しずつ明かされていく。だが、因果があきらかになったところで〝スッキリ〟するかといえばそうでもない、というのが本作のおもしろいところである。描かれていない、語られていないことはたくさんあるし、頭では理解できても共感できない、なんでそんなことになっちゃうの、もっと他の道はなかったの……と言いたくなってしまう部分もある。でも、なかったのだ、ということもわかってしまうのだ。時代が、環境が、彼女たちにそれ以外の道を選ばせなかった。正しいとは決して言えない選択を重ねてでも、人はたくましく生きていくし、誰かと生きていくために家族になろうとすることをやめられない。その業の深さが美しく、そして清々しい。

 いつか木綿は、彼女たちの事情を知るだろうか。知らずとも、その系譜をたどるように、我が道を切り開いていくのだろうか。描かれなかった未来にも、想いを馳せずにはいられない。

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