記憶喪失、汚部屋、いじめ……『タコピーの原罪』タイザン5の新作『一ノ瀬家の大罪』はさらなる問題作に

新たな問題作『一ノ瀬家の大罪』

 不快な描写が続くのを打ち出す展開は、読者が離れてしまう可能性の高い「危険な賭け」だったが、この賭けは成功し、本作の注目度は一気に高まったのだ。無力な子どもがひたすらひどい目に遭う物語を、ポップなキャラクターと大胆な作画で見せるという『タコピー』の作劇手法は『一ノ瀬家の大罪』では、より洗練されたものとなっている。

 『タコピー』でタイザン5は、狭い空間に物が散乱している描写を執拗に描いていたが、それは本作でも健在だ。翼たちが帰ってきた一ノ瀬家の異常な散らかり加減を描写するため、普通の漫画なら描かない食べ残しのパンやカップラーメンの残りといった細かいディテールを執拗に拾い上げている。

 何より衝撃的だったのが、見開きで描かれた「死」という文字が壁や天井にびっしりと書かれている翼の部屋。第6話以降、物語の焦点が妹の詩織に移るのだが、彼女の部屋にはウサギのぬいぐるみがびっしりと置かれていて、同じように見開きで描かれている。家族の謎が次々と明らかになっていく中、それぞれの隠された内面が部屋の全貌によって表現されているのだ。

 一方、中嶋と翼がバケツに入った残飯をぶっかける場面はバトル漫画の必殺技を描くように見開きで描かれているのだが、飛び散った残飯の描写もとても精密である。普通なら画にならないようなものを細かく描き込み、見せ場として描くアイデアには毎話、驚かされる。

 謎が謎を呼ぶストーリーも健在で、すでに本誌連載では『タコピー』を彷彿とさせる超展開の連続となっているが、斬新な漫画表現も本作の見どころである。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる