枡野浩一、穂村弘、くどうれいんが語るブックデザインの魅力 「SPBS」15周年記念イベントレポ
ものとしての本にこれほど影響力があるとは思わなかった
枡野:ブックデザイン自慢合戦は自己満足でいいんです。自主制作でもいいわけだから、こういうイベントはもっとやればいい。詩や歌の本はデザインがかなり大事だと思うし、穂村さんなんて中に何も書いていなくても売れる本にしてくださいってお願いするくらいだから。
穂村:タイトルと装丁が大事だと思っていて、タイトルと装丁に命をかけて中が真っ白でも売れるっていうのが理想なの。
くどう:お二人は装丁に関してしっかり打ち合わせをされていますか?
枡野:そうですね、全短歌集をつくる時もたくさん話しました。自分の場合はいいなと思う本を手に取るとたいてい名久井さんのデザインなんですが、(名久井さんは)穂村さんのファンだと知っていたしお願いしにくかったんですよ。でも担当編集の筒井さんが「やっぱり名久井さんにしましょうよ。短歌のことをいっぱい知っていて、穂村さんや他の歌人の歌集もつくっていて、そういう人が枡野さんの本をつくることに意味があるんじゃないか」と説得してくれて、納得してお願いしたという経緯があります。
名久井さんには増刷しやすい本にしてほしいとか、鉛筆でサインをするからそう思ってデザインしてほしいとか、わがままなこともいくつか言ってお願いしたんですが、聞いてくださって。タイトルも別案だったのを名久井さんの提案で最終的に変更したり。そういうことまで言ってくれて話し合えるのは、自分はすごく嬉しいタイプだから助かりました。
くどう:名久井さんは「書店で目立って本棚でなじむような装丁を心掛けている」とおっしゃっていました。すごくかっこいいけど、どうしたらそんなことができるんだという驚きがあって。でもたしかに、本屋でぱっと目についていいなと思うと名久井さんが装丁されていて、購入して家で並べてみると奇抜に見えなくて……名久井さん自慢合戦になってしまっていますが(笑)。
穂村:名久井さんは本当に素晴らしい人。3人ともお世話になっているから、今日は全員名久井さんを持ってくる可能性もあったよね(笑)。
枡野:ちょっとびっくりしたのが、くどうさんはデザイナーと会っていないんですよね?
くどう:私は名久井さんもそうですし、装画をお願いした方にも一度も会ったことがないです。担当編集さんを介してイメージをお伝えしていて、それも全部メールで完結しています。私が普段盛岡にいるので距離的なもので遠慮していただいているのか、それともその方が良いということで進めていただいているのか分からないですが、お二人の話を聞いてそんなに入ってもいいんだと思いました。
穂村:自分の本がきれいか、そうじゃないかは、大問題だもんね。きれいなものになると本当に嬉しいから、枕元に置いておいて暗闇の中で手を伸ばして触ったりします。触ったってきれいかどうかは分からないんだけど、あるある、みたいな。
くどう:ものとしての本にここまで影響力があるとは思っていませんでしたが、手触りのある本にするというのはすごく意味のあることなんだなと、当たり前のことですけど実感しました。
プロフィール
枡野浩一(ますの・こういち)
1968年、東京生まれ。1997年、歌人デビュー。笹井宏之、宇都宮敦、仁尾智らの短歌をちりばめた小説『ショートソング』(佐々木あらら企画執筆協力)は約10万部のヒット。入門書『かんたん短歌の作り方』(ちくま文庫)からは加藤千恵、佐藤真由美、天野慶らがデビュー。2022年刊『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』(左右社)は名久井直子装丁。
穂村弘(ほむら・ひろし)
1962年、札幌生まれ。歌人。1990年、歌集『シンジケート』でデビュー。短歌をはじめとして、評論、エッセイ、絵本、翻訳などを手掛ける。著書に『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』『水中翼船炎上中』『ラインマーカーズ』『世界音痴』『鳥肌が』『野良猫を尊敬した日』『はじめての短歌』『短歌の友人』『短歌ください』他。
くどうれいん
1994年生まれ。作家。著書にエッセイ集『わたしを空腹にしないほうがいい』『虎のたましい人魚の涙』、歌集『水中で口笛』、絵本『あんまりすてきだったから』、小説『氷柱の声』など。現在講談社「群像」にてエッセイ「日日是目分量」、小学館「本の窓」にて長編小説「オーバーオーバー」連載中。