『ONE PIECE』最強の“過去エピソード”は? Dr.ヒルルク、ベルメール、コラソンら愛深き人々を振り返る

『ONE PIECE』最強の過去エピソード

 人気漫画『ONE PIECE』(尾田栄一郎)の大きな魅力の一つに、キャラクターの「過去」を描くエピソードの秀逸さがある。最新の展開のためネタバレは控えるが、最終章を迎えた「週刊少年ジャンプ」の連載でも、あるキャラクターの過去が明かされつつあり、読者は覚悟するような状況になっている。敵味方限らず、キャラクターの命をいたずらに奪うことをしない『ONE PIECE』において、過去の描写は容赦なく悲劇的で、心を揺さぶられるエピソードが多いからだ。本稿ではあらためて、読者の心に残る「過去のエピソード」を振り返りたい。

※以下、『ONE PIECE』のネタバレを含みます。

 感動のエピソードとして多くのファンが早い段階で思い浮かべるのは、麦わら海賊団の船医・チョッパー(トニー・トニー・チョッパー)と、その恩人であるDr.ヒルルクの物語ではないか。暴君ワポルの独裁に苦しむ“医療大国”のドラム王国で、不治の病に体を侵されながら、無償で人々の治療を続けるヤブ医者のヒルルクと、「ヒトヒトの実」を食べたトナカイで、居場所を失った孤独なチョッパーの心の交流は、全体を通じて完成度が高いエピソードだ。

 罠の虚報でワポルの城におびき出され、今にも殺されようというとき、ヒルルクは病人がいなかったことをよろこび、自身の人生観と悔いのなさを叫んだ。お世辞にも腕のいい医者とは言えないが、最後に国が患った大病を治療してみせたヒルルクは、登場機会が少ないにもかかわらず、いまも強い印象を残す人気キャラクターだ。彼がいうとおり、人が死ぬのは「人に忘れられた時」なのだろう。桜というモチーフとトナカイの蹄が重なるアイデアもふくめて、深い悲しみを癒す美しさのあるエピソードだった。

 さらに物語をさかのぼると、麦わら海賊団の航海士・ナミの過去も壮絶だ。戦災孤児で、元海兵のベルメールの養女となったナミ。義姉のノジコと3人、ココヤシ村で騒がしくも平和に暮らしていたが、魚人海賊団・アーロン一味の魔の手が襲う。年貢を納めろと迫るアーロンに、ベルメールはナミとノジコの分だとして全財産を支払い、見せしめのために殺害されてしまう。アーロンに対する憎しみこそあれ、悲惨な最期にもかかわらず悲壮感はなく、ふたりの養女に愛情と伝え続けた。

 ナミは登場した当初、金しか信用しない嫌なキャラクターにも見えたが、このエピソードでそのイメージは一転する。幼少期から描き続けてきた海図の精度に目をつけられ、アーロン一味で仕事を強要されながら、ココヤシ村を買い取るために1億ベリーを貯めようとしていたナミ。アーロンは当然、そんな約束など守るはずがなく、初めて素直に助けを求めたナミに、ルフィは応えるのだった。

 麦わら海賊団に直接かかわらないところでは、ルフィの良きライバルといえる“死の外科医”トラファルガー・ローのエピソードも、ファンに人気が高い。不治の病(珀鉛病)の拡大を恐れた政府が町を人ごと焼き払い、ローのみが生き残る……という悲劇から始まり、悪名高きドンキホーテファミリーに身をやつすことに。“トラファルガー・D・ワーテル・ロー”という本名にある「D」の一字が、ファミリーのトップであるドンキホーテ・ドフラミンゴに知られ、身に危険が迫るなか、助けてくれたのはドフラミンゴの実弟でありながら、海軍のスパイとしてファミリーに潜入していたコラソン(ドンキホーテ・ロシナンテ)だった。

 コラソンは一見驚くほどドジだが、正義感に溢れ、やるときはやる男だ。ローが故郷で患った珀鉛病を治すため、ドフラミンゴから「オペオペの実」を奪い取り、結果として命を奪われることになる。ローに人間性と自由を取り戻させた“コラさん”は、登場機会の少なさと比較して今も高い人気を誇るキャラクターだ。

 主要キャラクターの数だけ秀逸な過去のエピソードがあり、語り出せばキリがない『ONE PIECE』。強いて一番好きなエピソードを挙げるとしたら、皆さんは誰の物語を選ぶだろうか。

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