【漫画試し読み】“おもてなしの精神”は異世界を変える!? 痛快でお腹が鳴る『康太の異世界ごはん』の誘惑

『康太の異世界ごはん』を試し読み

 もし異世界に転生してしまったとき、現実の知識や経験は役に立つだろうか? そんな疑問に対して、優しく痛快な答えを見せてくれるのが、人気ライトノベルで、現在コミックサイト「ヒーローコミックス」で漫画版が連載中の『康太の異世界ごはん』だ。主人公は若き居酒屋店主・紺屋康太。食材の乏しい異世界に転生した彼は、「料理」の技術だけでなく、接客を含む日本的な「おもてなしの精神」で注目を集めていく。

若き居酒屋店主・紺屋康太が転生したのは、わずかな棚田でお米をつくり、エルフの娘がどぶろくをかもす、日本の里山みたいな異世界。ひょんなことから康太はそこで、超先進国からの客に饗宴の席を設けることになる。しかし、この土地には食材は米と黒豆ぐらいしかなく、調味料も調理器具も存在しない。康太は『ないものはない、あるものはある』の精神と接客技術で饗宴を成功に導く。そして、エルフの娘の家に転がりこみ、異世界暮らしが始まる。ある日、康太は傷ついた少年のため、小麦もチーズもない世界で、ピザをつくろうと走りまわる。神話を紐とき、失われたエルフの食材を得て焼き上げたローマピザの味は……! ? 異世界に転生した居酒屋店主が、乏しい食材で料理作りに奮闘する、ごはんとお酒の物語。

 リアルサウンドブックでは、そんな『異世界道楽に飽きたら』の原作者・中野在太先生と、コミカライズを手がける寅尾あかまる先生にインタビューを敢行。本作が生まれた経緯や、物語に込めた思いを聞いた。

『康太の異世界ごはん』第1話を読むには画像をクリック

『康太の異世界ごはん』中野在太先生&寅尾あかまる先生インタビュー

ーー『康太の異世界ごはん』は異世界グルメ作品として出色で、現実世界の知識と経験を活かしながら、料理だけでなく接客という要素も取り入れつつ、「あるもの」を使った創意工夫で最高のおもてなしをする、という展開にカタルシスがあります。この物語がどのように生まれたのか、着想のきっかけから教えてください。

中野存太(以下、中野):「里山みたいな土地でエルフがどぶろくをかもしていたら画としておもしろいかもしれないな」というところがはじまりです。そのような舞台であれば、野外の食材を採って食べる趣味を無理なく挿入できるな、と思い、そのために設定を整えていきました。接客の要素を入れたのは、接客業という仕事は実はかなり特殊でおもしろいのではないか、と、そのとき感じていたからです。

 小売りにせよ飲食にせよ、われわれは、あれを食べたいとかこれを買いたいとか、目的を持ってお店に向かいます。対価を渡して商品を受け取れば、基本的にはそこでカスタマーと従業員の関係は終わりです。しかし、すぐれた従業員は、感じのいい笑顔だったり気の利いた商品説明だったり、あるいは日本酒を升にたっぷりこぼしてみたり、さまざまな技術を用いて顧客のロイヤルティを瞬時に醸成します。多くの場合は初対面の、しかも、一杯ひっかけてさっさと帰ろうとしか考えていないような相手を、数秒から数分で信頼させるテクニックに、魔法のようだと感心してしまいます。そのようなマジックを物語にうまく入れられれば、読んでいて楽しいものになってくれそうだと考えました。また、接客業に従事している方に、自分もしかしてけっこうすごいことしてるんじゃないか? なんて誇っていただけたらうれしいな、と思いながら書いている部分はありました。

ーーコミカライズを手掛けるにあたり、寅尾先生は『康太の異世界ごはん』という物語についてどんな印象を持ちましたか?

寅尾あかまる(以下、寅尾):優しくあたたかな雰囲気の中で、世界の厳しさが描写されていて、ごはんを食べるだけではない深さがある物語という印象です。

ーー誠実で頭がよく、仕事ができる康太と、心が美しく少し抜けているところも愛らしい榛美を中心にキャラクターが生き生きと描かれており、素朴なものが多い料理も実際に食べたくなってしまう、魅力的なビジュアルになっていますね。

寅尾:中野先生と七和先生が作り上げてきた作品の世界を大切に、丁寧に描くことを意識しています。あと、榛美さんを可愛く描くことに全力を注いでいます。

ーー中野先生はそんな寅尾先生の作画についてどう受け取りましたか?

中野:キャラクターが毎コマ供給されることにずっと興奮しているので、冷静な評価はなにひとつできないのですが、みんな表情がいいなあと感じています。榛美はかわいいし康太はやさしそうだし悠太はかわいいですね、本当にかわいいです。

 また、原作には変わった料理や家屋、民具などがつぎつぎに登場します。たとえば蒸留酒をつくるための蒸留器は、西日本の民家で実際に使われていたものをモデルにしているのですが、おそらく地球人類81億人中多くて70万人ぐらいしか見たことがないものだと思います。文章では『蒸留器』と書けば事足りますが、それを作画されるというのは、ぼくには想像を絶することです。そのようなご苦労に取り組まれている寅尾先生を、心から尊敬しています。

ーー知識と技術があり、優しく機転がきき、控えめながら存在感のある康太は、異世界だけでなくどんな設定でも理想的な主人公だと思います。おふたりは康太をどんなキャラクターだと捉えていますか。

中野:ぼく自身は、康太はたくさんの欠点を抱えたキャラクターだと捉えています。優しいのも控えめなのも臆病だからで、傷つけてしまったり傷ついてしまうような深い関係を築くことに、苦手意識があるのだと思います。

 けれど、そういう性格だからこそ、風土や習俗、価値観の違いに接した際、まちがっているぞと断罪したり導いてやろうと思いあがったりすることなく、敬意を払って寄り添えるのかもしれません。人も土地もむりやり矯正するのではなく、時間をかけて合意をはぐくみ変化していくべきもので、そういう意味では、もしかしたら康太は理想的な主人公といえるのかもしれません。

寅尾:優しく好青年な康太さんですが、興味のあることになると変態的に……とことん熱中してしまうところが面白いですね(笑)。

ーー作中に登場する料理で、お二人が食べてみたいと思うメニューはありますか?

中野:豆腐です。丹波黒とタマフクラ(どちらも大豆の品種でぶったまげるほどおいしいです)を合体させたような味らしいので、一口食べたらおそらくひっくり返ることでしょう。作中同様、ひとつまみの塩で甘さを引き出した豆腐と、澱の味がどろっと残っているようなきついどぶろくを戦わせてみたいです。

寅尾:豆腐が食べてみたいです。シンプルな食べ物なだけに、康太さんがつくったお豆腐はどれだけおいしいのか気になっています。

ーー康太、榛美をはじめ、ミリシアさんやピスフィ嬢もふくめ、性格も立場もさまざまで魅力的なキャラクターが多く登場します。もしお気に入りのキャラクターをひとり挙げるとしたら?

中野:あえてひとり挙げるなら悠太です。彼は万能感と自己不全感の振り子をいったりきたりする思春期の少年で、あるときはまわりが全員ばかに見えていて、あるときは自分ひとりだけがばかなのだと思い込んでいます。かわいいですね。さっそうと現れた有能なおとなである康太を心から尊敬しているのですが、それを表立って態度で示すことができません。いとおしいですね。もちろんまわりの人間は悠太が康太を尊敬していることなどもれなく気づいているのですが、悠太本人だけは隠しおおせていると考えています。あいらしいですね。どんなことにも照れる年ごろなので、康太を名前で呼ぶことができず、ずっと『白神』呼ばわりしています。素直になんかならなくて良いのでずっとそのままでいてほしいですね。

 康太は良い年齢の大人なので、悠太のそうした性格を見抜いてたびたび下手に出るのですが、そのことに気づけるくらいには聡明な少年なので、ばかにするなと苛立ちつつも、賢く強いおとなになって対等になりたいと強く願っています。向学心があってえらいですね。理想のおとなになるため康太につきまとっているくせに、向こうの趣味に付き合ってやっているんだという態度をかたくなに崩しません。みんな分かってるからそのままでだいじょうぶだよ。また、とある事件で深いコンプレックスを抱えており、肝心なところで一歩動けずに硬直してしまうことがあります。しんどいですね。いろいろ大変だけどがんばってほしいし幸せになってほしいしほどほどにひどい目に遭いつづけてほしいです。

寅尾:ミリシアさんです。クールな美人さんなのにピスフィ嬢のことになると面白い人になってしまうギャップが好きですね。

ーーこれから漫画版『康太の異世界ごはん』に触れる読者に対して、一言メッセージをお願いいたします。

中野:原作を書きはじめたのはもう十年近く前になりますが、今なおけっこう、ユニークな話なんじゃないかと自負しています。寅尾先生のご尽力によってキャラクターに、土地に、また道具のひとつひとつに命を吹き込まれた本作を、ぜひ、ごゆっくり味わってくださいませ!

寅尾:異世界に来たからといって康太さんは魔法や特別な能力を使うわけではなく、培ってきた知識でごはんをつくり、悩みながら様々なことを乗り越えていきます。ファンタジー作品だけど現実的で新感覚な異世界のごはんのお話を一緒に楽しみましょう。

『康太の異世界ごはん』
作品URL:https://www.infos.inc/fandom/comic/hero02/

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