『ぼっち・ざ・ろっく!』ヒットの理由は? 「SNS社会への悩み」と「バンド知識不要でも楽しめる様々な工夫」

『ぼっち・ざ・ろっく!』第1巻。「まんがタイムきららMAX」で連載中。はまじあき著、芳文社/刊

 昨年ヒットしたアニメと言えば『ぼっち・ざ・ろっく!』が挙げられる。「まんがタイムきららMAX」(芳文社)で連載されている、はまじあきの4コマ漫画が原作だ。

  当初はノーマークだったというアニメファンも多かったといわれるが、回を重ねるごとに人気が急上昇。既に2期を待望する声も上がっているヒット作となった。

 単行本も増刷が行われているが、地方の書店では依然として品薄状態が続いており、『ぼっち・ざ・ろっく!』旋風が巻き起こっていると言っていい。

 既に様々な記者がヒットした要因を分析しているが、改めて考察してみたい。ヒットの大きなポイントは、時代に合ったテーマの漫画だったということである。リアルサウンドブックのインタビューで原作者のはまじあきが「SNSでは特技を披露してヒーローになれるけれど、現実社会とのギャップに悩んでいる人もいると思う」と答えているが、そんなはまじの想いを代弁させた主人公の後藤ひとり(ぼっちちゃん)は、SNS社会の現代にぴったりなキャラクターであった。

 ぼっちちゃんは動画サイトでギターテクニックを披露し、人気を博していた。対して、学校などのリアルでは自分からクラスメイトにも声をかけられない性格で、ギターについて語り合う仲間を作りたいのに作れないというジレンマを抱いていたのだ。そんなぼっちちゃんがひょんなことからライブハウスでバンドを組むことになり、懸命に一歩を踏み出そうとする姿に共感する人が続出したのである。

 1巻の前半はぼっちちゃんの陰キャネタが中心のギャグ漫画だった。変顔やとにかくネガティブなセリフは笑いを誘う。ところが、話が進むにつれてぼっちちゃんがバンドメンバーと絆を通わせていき、文化祭や様々なイベントなどに出演しながらギタリストとしても成長していく成長物語になった。こうしたひたむきな姿は清々しい感動を呼んだ。

 既に「きらら」では『けいおん!』という音楽漫画のヒット作がある中、まったく異なるアプローチでヒットに導いたはまじあきの手腕は見事と言っていい。インタビューでも答えていたが、執筆前のはまじあきはギターとベースの違いもわからないほどで、決して音楽に精通しているわけではなかった。ゆえに、楽器やバンドの知識を学ぶのと並行しながら、漫画を執筆していったという。そのためか、バンドについて知識のない初心者でも読みやすいのが嬉しいし、バンドや楽器、ライブハウスの専門的なことをしっかりと解説をしてくれているので話においていかれることがない。

 また、音楽漫画ならではの演奏シーンの表現も素晴らしいし、アニメの主題歌や挿入歌も魅力がある。筆者の友人で、大の「きらら」ファンであり、『ぼっち・ざ・ろっく!』ファンがこう語る。

 「アニメを語るうえでは、主題歌や挿入歌も見逃せません。著名なアーティストが作詞、作曲、編曲しているので、純粋に曲としての聴きごたえがあります。特に、喜多郁代役の長谷川育美さんが多彩な歌声を披露してます。メディア展開も上手いですね。YouTubeでは『ぼっち・ざ・らじお!』という番組がありますが、ぼっちちゃん役の青山吉能さんがギターを練習する動画など、コンテンツ盛りだくさんです」

 魅力は尽きないが、はまじあきの漫画が面白いうえに、アニメはその原作のウリを最大限に引き出した作りであった。そしてメディアミックスの巧みさ、時代に合ったテーマ性などが、『ぼっち・ざ・ろっく!』をヒットさせた要因といえるだろう。

『ぼっち・ざ・ろっく!』作者・はまじあきインタビュー「 ぼっちちゃんの性格は、私自身の投影です(笑)」

今期のアニメーション界の話題を席巻する作品になった、はまじあきの4コマ漫画『ぼっち・ざ・ろっく!』。  「陰キャな…

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