『さよならを教えて』を生んだ鬼才・長岡建蔵が語る、 人気クリエイターに美少女ゲーム出身者が多い理由
“鬼才”長岡建蔵はこれから何を作るのか
――当時は美少女ゲームに流れていたような人材が、今ではソシャゲに流れていると思います。ただ、当時の原画家は、長岡先生を筆頭に一目で作者がわかる個性的な絵を描かれる方が、たくさんいました。
長岡:そりゃあ、誰だって景気の良い業界に行くでしょう(笑)。ソシャゲの界隈を見て思うのは、全員が同じくらい高いレベルの絵が描けないといけないのだなと。でも、美少女ゲームの原画は基本的に1人で描きますし、そもそも絵を描く過程が集団作業ではなかったので作家性を発揮しやすいのでしょう。しかも、そうした絵がファンからも好まれていた部分もあります。作る側と見る側の分解能もそこまで高くなかったので、いわばちょっと崩れた絵を描く人が普通だったんですよ。
――ソシャゲはどの作品を見てもグラフィックが美しく、技術力では群を抜いています。
長岡:技術力では大陸のクリエイターには勝てないなと思いますね。なので、僕はある時期に開き直って、上手くなろうとするのを止めました。魅力的な絵を描きたいとは思っていますが、上手さを追い求めると限界あるな、と。最近はAIの進化も目覚ましいですし、キリがないですから。
――いえいえ、長岡先生の絵はとても魅力的だと思うのですが。昨今は女性のファンも多いと伺っています。
長岡:レトロブームも関係あるんじゃないですかね。あとは、実は女性のほうが怖いストーリーに抵抗がないですよね。令和の今だって、少女漫画雑誌にホラーやグロテスクな漫画が載っているじゃないですか。女性は精神的に暗いストーリーを受け入れてくれるんですよ。だから、そういったテイストの作家として認知されてる部分もあるのかもしれません。
――全盛期は人気の美少女ゲームの発売日となると、秋葉原のショップに行列ができたものでした。今後、業界はどうなるのでしょうか。
長岡:美少女ゲームが消えることはないと思いますし、以前から、VRが普及したらパラダイムシフトが起こると言われています。ただ、でっかいゴーグルを着けてプレイしてる間は爆発的には売れないんじゃないかなあ。せめて、メガネくらいの感覚にならないと。その技術革新が起きた時に、再び盛り上がる可能性は大いにあるんじゃないかと考えています。
――そんな中、長岡先生は新たな美少女ゲームを制作しているそうです。ソシャゲ全盛の時代に美少女ゲームを出すのは冒険だと思います。
長岡:危険かな。しばらく、ゲーム業界から遠ざかっていたんです。でも同業の友人が亡くなったのもあって、何か作らないとって思いましたし。SNSや20周年イベントを通して、新しい世代のファンの方が生まれてるのを実感しました。ありがたいことに何か作ってほしいという声もありましたので。来年5月には、CRAFTWORKのブランドから『Geminism-げみにずむ-』という新作をリリースできるように頑張っています。よろしくお願いいたします。
美少女ゲーム界の出身者がオタク文化を創造した
美少女ゲームは、現在では一般的になったパソコンで見るきれいな美少女の絵、高解像度のアニメ風の絵の原点であるという意見もある。確かに、2000年前後の美少女ゲームのグラフィックを見ると現在の感覚から見ても遜色ない美しい絵が多く、表現の幅も広いのだ。パソコンソフトを使って最先端の絵を描きたいクリエイターにとっては、美少女ゲームはうってつけの表現の場だったことがわかる。
美少女ゲームに関わった人の中から突出した才能が生まれた要因は、長岡が言っていたように、フロンティアとしての魅力があったこと。そして、あらゆる人を分け隔てなく受け入れる土壌があったことが大きいのではないだろうか。こうした環境で育まれた人材が、後の出版界はもちろん、日本文化を担う存在へと成長していったのである。発売から20年、30年経ったタイトルも多い今、美少女ゲームが果たした役割を一度検証すべき段階にきているのではないだろうか。