『ラブライブ!』『Angel Beats!』『シスプリ』を生み出した 雑誌「電撃G's magazine」休刊。その歴史を振り返る。

『電撃G's magazine』が休刊。その歴史を振り返る。

 美少女ゲームなどを扱ってきた雑誌「電撃G's magazine』(以下、『G's』)が、2022年10月28日に発売された2022年12月号を機にひっそりと休刊になった。1992年12月に『電撃PCエンジン』(1993年2月号)として創刊されて以来、約30年という歴史を重ねてきた雑誌であったが、30年目の節目で休刊となってしまった。

 さて、『G's』はオタク文化の全盛期を支えた雑誌である。同誌の歴史をたどれば1990年代から現代までの美少女ゲームやオタク文化の歩みを俯瞰できるようになっている。1990年代後半から2000年前代は、『To Heart』や『Kanon』、『うたわれるもの』、『Fate/stay night』など、現在も人気の高い美少女ゲームのビッグタイトルが多数発売された。また、2000年代半ばに『電車男』のブームが起こると、秋葉原のオタク文化が注目され、これまで見向きもしなかった一般層にも浸透し始めた。

 美少女ゲームを扱う雑誌は以前から存在していたが、『G's』の躍進のきっかけになったのは、1999年3月号から始まった『シスター・プリンセス』(以下、シスプリ)である。お兄ちゃんのもとに突然9人の妹が現れる(後に3人が追加されて12人になる)というぶっ飛んだ設定は大きな話題となり、またたく間に主力連載となった。2000年3月号からはシスプリの“妹”たちが、毎号表紙を飾るようになった。読者の圧倒的な支持を受けてゲーム化、そしてアニメ化と、順調にメディアミックスを進めた。

 また、このリアルサウンドブックで記事にしたように、『シスプリ』の天広直人が描く美しいイラストは読者を虜にした。『邪神ちゃんドロップキック』などの作品で知られる漫画家のユキヲのように、『シスプリ』に衝撃を受けてプロを志した人も少なくない。また、のちに『ラブライブ!』シリーズの手掛けることになる公野櫻子は、『シスプリ』の原作担当であった。本作をきっかけに、後の漫画・アニメ文化を支える数々の才能が世に送り出されたことも重要である。

 とはいえ、どんなにメディアミックスが進められたとはいえ、『シスプリ』の人気はあくまでも熱心な『G's』読者の支持がメインだったといえる。『シスプリ』に続く主力作品として『双恋』や『Strawberry Panic!』などの企画が立ちあげられて好評を博したものの、『シスプリ』を上回る人気を得ることはできなかった。ところが、2000年代後半からは、一般層からも高く評価を得るメガコンテンツが数多く輩出されるようになったのである。

 その先駆けとなったのは2009年から始まった『Angel Beats!』である。『Kanon』や『CLANNAD』などの美少女ゲームを手掛けたビジュアルアーツと『G's』が共同で世に出たコンテンツだ。関係者の顔ぶれも豪華なものであった。シナリオライターの麻枝准が原案・企画を担当。キャラクターデザインは、当時『リトルバスターズ!』の能美クドリャフカのデザインなどで気鋭の原画家として注目が集まっていたNa-Gaが手掛けた。そして、アニメに登場するバンド「Girls Dead Monster」の曲は、のちに『鬼滅の刃』で大ヒットを飛ばすLiSAが歌っていたことでも知られる。

 そして、『G's』史上最大のヒットと言えるのは、ご存じ『ラブライブ!』シリーズである。2010年6月から『G's』誌上で連載が開始され、同年8月には作中に登場するスクールアイドル、μ’s(当時は「ラブライブ!」名義)のファーストシングル「僕らのLIVE 君とのLIFE」が発売された。当初のオリコンランキング最高位は167位と振るわなかったものの、2013年にテレビアニメ化されると歴史的な大ヒットコンテンツとなった。

 その後、μ’sは東京ドームでライブを行い、紅白歌合戦に出場するほどの成長を遂げた。キャラクターを演じた声優の人気も急上昇し、キャラクターデザインを行った一人である室田雄平も一躍人気アニメーターとなった。『ラブライブ!』は日本を代表する大手企業とのコラボも次々に行われ、『シスプリ』なども成しえなかった一般層の支持を得ることに成功した。シリーズの勢いはとどまることを知らず、その後は『サンシャイン!!』『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』『スーパースター!!』など数々の続編が制作され、2010年以降を代表するアニメコンテンツになったのである。

 こうして見ると、『G's』の歴史は美少女ゲームの歴史のみならず、オタクコンテンツ、アニメの歴史そのものを辿っているといえる。与えた影響力の大きさがとてつもなくよくわかるであろう。

 しかしながら、筆者の周りで話を聞いて実感するのであるが、『Angel Beats!』や『ラブライブ!』を知っていても、『G's』を知っている人や買ったことがある人が極めて少ないのである。アニメやキャラクターが既に一人歩きを始めている証拠であり、ファンが必ず雑誌を買い、情報を得るパターンが過去のものとなったのであろう。『シスプリ』の頃は違っていた。なんとしてでも推しの妹(当時はマイシスター、マイシスと呼んだ)に誌面の人気ランキングで1位になって欲しいがために、『G's』を買って投票していたものなのだが。

 図らずも、『G's』の休刊は、オタクコンテンツの中心が雑誌からネットに移ってしまったことを象徴しているといえよう。しかし、時代に翻弄されながらも約30年に渡って出版され続け、その間に数々のコンテンツを生み出した偉業は、後々に評価されることは間違いないだろう。

 なお、紙媒体として『G's』は休刊となったが、それを引き継ぐ形でWEBサービス『G‘sチャンネル』の解説が決定している。KADOKAWAの発表によれば、『G's』発のオリジナルコンテンツを楽しめるほか、これまで誌面で連載されていた人気作品も展開していく無料のサービスとなっている、とのことである。

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