“ご当地萌えキャラ”の魅力 コレクターの漫画家・熊倉隆敏が語る 最新作『つらねこ』との関係性

熊倉隆敏『もっけ』

  現在、『青騎士』で『つらねこ』を連載中の漫画家・熊倉隆敏。妖怪に造詣が深く、アニメ化された妖怪漫画『もっけ』などの作品で知られるが、意外な趣味が“ご当地萌えキャラ”グッズのコレクションだ。グッズを蒐集するだけでなく、多忙な仕事の合間を縫って地方へ足を運んでイベントに参加し、時には企画者と交流を重ねることもあるという。

「公式のご当地キャラももちろん好きですが、企画者が愛する地元をみんなに知ってもらおうという思いでキャラを作り、非公式で活動している例に惹かれます。企画者が、無理のない手の届く範囲内で活動しているのがいいですね」

  ご当地萌えキャラの造形は実に多種多様である。熊倉が好む造形的な特徴は、何かあるのだろうか。

 「これは難しい質問です……様々あるので一概には言えず、好みとしか言いようがないなと。ただひとつ特筆すべき点があるとしたら、デフォルメのデザインが良いと、ますます好きになるということでしょうか。成人のキャラクターであっても、デフォルメされると、大人とも子どもとも違った丸くてかわいらしい印象が生まれ、非常に親しみやすくなるんですよね。キャラ活動にも幅が広がるので、見ていて楽しいです」

  今やこうしたキャラは全国各地に分布しているが、熊倉は情報をどのように入手しているのか。

「基本的には、SNSやネットを検索して知る感じですね。そして、琴線に触れたものを見に行きます。僕はあくまでもご当地にお邪魔させていただき、束の間で楽しませていただいている立場ですね」

 そんな熊倉がこれまで出会った、印象的なご当地萌えキャラを3つ挙げていただいた。いずれも地元を盛り上げるべく奮闘しているキャラばかり。熊倉を惹きつけてやまない地元愛とかわいらしいデザインを堪能してみよう。

江ノ島さんぽちゃん

江ノ島さんぽちゃん(ツイッターアカウント:@enoshimasanpo)

「2014年に誕生した頃、ネットで既に見かけていて存在は知っていました。ただ、その時は今ほど熱もなくスルーしてしまっていて……、それから2018年の活動4周年記念の時に、江の島でブロマイド配布イベントをやってるのを見かけ、そして土産物屋さんでアクキーも売ってると知り、それらが猛烈に欲しくなったのが今のご当地萌えキャラへの熱に火がついたきっかけだったと思います(笑)」
 「個人運営の自治体非公認キャラではありますが、それが逆に動きやすくなってるところでもあります。年々、活動の幅や地域の協力者が増えていってて、運営さんの誠実で着実なプロデュースぶりに感心させられっぱなしです。さんぽちゃんは写真を撮るのもお上手。江の島やその周辺の日々の何気ない、それでいて印象深い風景をツイッターで見せてくれるので、彼女が“活きて”いることを感じさせてくれます」

 嶺南ミカミちゃん

嶺南ミカミちゃん(ツイッターアカウント:@mikami_wakasa)

「ご当地萌えキャラへの熱に火がつき、もっと全国のキャラを知りたいと情報を集めていた時に出会いました。とにかく、キャラのデザインが僕の好みにストライクで……。他のご当地キャラさんだと、地域の文物に由来した奇抜なデザインになりがちなところを、ニュースキャスターというか、地域の広報担当的なキャラということでスーツをキチッと着ている姿に惹かれてしまいましたね」
「広報担当という設定なので、ツイッターでは地域のニュースや最新情報などを中心に発信しています。一方で鯖がとにかく大好きという愉快な面もあって、サバの日には京都の若サバちゃんというキャラとも連動し、鯖街道萌えキャラスタンプラリーという限定グッズやコンプ報酬が手に入るイベントもやっていて大変面白かったです」
 「最初にグッズを求めに行ったのは、いつもグッズを取り扱ってくださってる敦賀のカフェ・シ・テールさんで開店38周年記念ストラップが出た時でした。ミカミちゃんグッズは、基本的にはご当地に赴かないと入手できない。それは福井嶺南に皆さんに来て欲しいという思いであって、とても共感できることだなと思います。僕もミカミちゃんがきっかけで、初めて福井県の地を踏みました」

 およしちゃん

およしちゃん(ツイッターアカウント:@oyoshi_gujo)

 「岐阜は郡上八幡のおよしちゃん、彼女はとても興味深い特性を持ってます。郡上八幡城に残る人柱伝説から生まれたおよしちゃんは、土地神のような存在なので、お城を中心とした半径900m圏内しか行動できないのです。ただ、城の紅葉が活力源の彼女は、紅葉が鮮やかに色づく1年のわずかな期間だけ行動範囲が約1.5倍に広がり、普段は行けない国道156号線沿いのコメダ喫茶店にも行けるのです(笑)。そういうささやかな喜びをネットを通して共有できるのが、ご当地キャラ応援の醍醐味じゃないかなと」

 「およしちゃんは江ノ島さんぽちゃんと同じく写真がお上手で、また郡上八幡に行きたいなあといつも思わされます」

「ちなみに僕が現在、『青騎士』で連載している漫画『つらねこ』のキャラ、知里も地元の神木から半径2km圏内しか行動できない娘。実はおよしちゃんを知った頃に何となく近い設定で漫画のネタが浮かんでて、彼女から多分にアイデアの補強をさせて貰ったのでした。なので『つらねこ』はおよしちゃんインスパイア作品といっても過言じゃありません!」

 このように、ご当地萌えキャラは熊倉にとって、外に出かけるきっかけを作ってくれているだけでなく、漫画の創作意欲を刺激している存在でもあるのだ。

 なお、ご当地萌えキャラの中には既に引退してしまったキャラもいる。例えば、JR稲毛長沼駅の宣伝担当を担ったキャラ「稲狐ちゃん」などである。絵心のある駅員がデザインを手掛けたと思われ、そのかわいらしいデザインが一部の鉄道ファンの間でも話題になっていた。熊倉ももちろん訪問している。

 「稲狐ちゃんの存在はネットで知りました。家から駅まで自転車で行ける距離だったので、気になって行ってみたら、駅構内に思いの外いっぱいいてビックリしました(笑)。駅員さんが手弁当でやってらしたんでしょうけど、凄い熱量とサービス精神だなと思います」

 「その後も何度か伺いましたが、その度にデザインが変わっていたり凝ったりしていて、驚かされましたね。引退しちゃったのは残念ですが、またひょっこり戻って来てくれたら良いなと思ってます」

 なお、稲狐はインタビューを担当した記者もお気に入りのキャラである。今回のインタビューは、熊倉に現役で活躍するご当地萌えキャラを語っていただく趣旨であったが、筆者の強い希望で、引退した稲狐も最後に載せることにした。

 かわいらしいキャラを街角で見つけると、にんまりしてしまう人もいるのではないだろうか。ご当地萌えキャラを見ていると、日本人がいかに創作好きで、全国各地で豊かな創作文化が育まれていることがわかる。

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