大学ではマンガをどう教えている? 日本にひとつしかない“マンガ学部”の授業に潜入してみた

大学ではマンガをどう教えている? 日本にひとつしかない“マンガ学部”の授業に潜入してみた

日本でマンガ学部を設置する唯一の大学

 大学が“マンガ”を教える。平成18年(2006)に設置された京都精華大学のマンガ学部は、開設された当初から世間の話題をさらった。現在も、日本でマンガ学部を設置している大学は京都精華大学が唯一である。しかしながら、いったい大学では、どのように教えるのか。どんな授業が行われているのか。気になる読者も多いのではないだろうか。

京都精華大学の本館。まるでSFアニメに出てきそうな未来的な外観が目を引く。

 今回は、マンガ家のおおひなたごうや田中圭一らが教員を務める、京都精華大学マンガ学部の「新世代マンガコース」の授業風景を見学してきた。そもそも、新世代マンガコースとはいかなるコースなのだろうか。おおひなたがこう解説する。

 「新世代マンガコースは、基本的にノンジャンルで何を描いてもいいコースです。少年マンガから少女マンガ、ホラー、アクション、BL、SF、ウェブトゥーンまで、なんでもありです。ここで学ぶのは、『どうアウトプットするか』ということ。現代のマンガはSNSで発表してもいいし、投稿サイトに応募してもいい。いろいろな表現や発表の仕方があることを学び、自己プロデュースできる能力を身につけるのが狙いです」

  確かに、かつてマンガ家がデビューする方法といえば、出版社が主催する新人賞に応募したり、持ち込みをして編集者からアドバイスを受けるスタイルが一般的であった。そうした従来の手法でデビューするのももちろん良いのだが、様々な手段にもチャレンジし、多岐にわたる活躍ができるマンガ家を育成するというのがポイントだ。

  なお、マンガを学ぶ場と聞いて思い浮かぶのは、アニメーション系の専門学校であろう。大学と専門学校、その違いはどこにあるのだろうか。

 「専門学校は、文字通り専門的な知識や技術を学ぶところです。対して、大学は専門的な知識だけでなく、幅広い分野の学問を学ぶことができます。また、専門学校の多くは2年制ですが、大学は4年制。そのぶん、学びに時間をかけられるところが大きな違いだと思います」

進級課題でマンガを1本制作

 授業が始まると、続々と学生が大教室に集まってきた。1コマあたり90分という時間は、一般的な大学と変わらない。出欠を取った後、学生はマンガの制作に入った。この日、学生が取り組んでいたのは進級制作である。新世代マンガコースでは、進級のためにはマンガを1本描き上げることが必須条件なのだと、おおひなたが言う。

 「学年ごとに進級課題があります。今年の1年生は、『キャンプ』『料理』『文化祭』などのお題から1つ選んでマンガを仕上げます。後期の10月から制作が始まり、1月末まで8ページぴったりに収まるマンガを1本仕上げるのが課題です」

新世代マンガコースの授業風景。とにかく黙々とマンガを描いている学生たちの集中力が凄まじい。

  マンガ家を目指すための必須条件は、まずはとにかくマンガを1本描くことである。実は、この第一歩を踏み出すまでのハードルが高い。筆者がこれまで取材をしていて感じることだが、マンガ家を目指していると公言するものの、完成させずに終わる人は少なくないためである。新世代マンガコースでは進級課題にすることで、必ず仕上げる環境が整えてある。

  8ページと聞くと簡単に思えるかもしれないが、いざやってみると非常に難しい。特に、ストーリーマンガをこのページ内に収めるのは至難の業である。おおひなたはその狙いをこう話す。

 「マンガ家を志望する学生は、ページの縛りがなければ何ページでも描けてしまう人が珍しくありません。しかし、商業誌で仕事をするためには決まったページ数で読みやすくまとめ、しっかりオチをつけて完結させることが重要。したがって、8ページというページ数はとても大切なのです。ちなみに、2年生になると16ページに増えます」

教員のおおひなたごうとマンガのプロットをどうすればいいか、議論を交わしている学生。

マンガの作風は人それぞれ

 学生はストーリーの設計図といえるプロット、さらには下描きに入る前の段階のネームも描くなど、進捗状況はそれぞれだ。また、おおひなたが言っていたように、新世代マンガコースは基本的にノンジャンルである。教室を見て回ると、画風が少女マンガ風や少年マンガ風だったりと、学生ごとに異なっている。こうした異なる作風の学生同士で切磋琢磨できるのが新世代マンガコースの魅力と、学生が話してくれた。

こちらの学生は少年マンガのネームを描いている最中。ジャンプ系の雑誌に投稿したいと話す。

 また、ノートにネームを描く学生もいるが、全体的にはiPadプロを使って仕上げる学生が圧倒的に多い。筆者のイメージではマンガは紙に描くものだったが、今や制作が徐々にアナログからデジタルに変遷しつつあることを感じた。新世代マンガコースの授業アシスタントを務めるイラストレーターのくろなゆたは、現在の学生の動向をこう話す。

 「媒体の多様化からか、紙のマンガを知らない世代に移り変わっているように感じます。両側面を大事にしつつ、基礎的な技法や、器具や機器の使い方を一から学ぶ形態になりつつあります。しかしながら、賞の受賞者は年々増えていますし、母数を加味しても素晴らしい成績を残す学生がたくさんいます。環境と学生の質が、結果につながっているのではないかと思います」

デビューした学生の掲載誌がずらりと並ぶ。新世代マンガコースが開設されて5年、着実に成果をあげている。

  授業中には5人の教員に相談ができる。その様子を見ていると、物語の組み立て方やキャラの性格付け、セリフのフォントが入るのにちょうどいい吹き出しの大きさまで、内容が実にマンガ学部らしい。

  そして、学生は制作中の作品を大学のフォルダにUPし、進捗状況の報告を行う。近々、グループごとに作品の内容や進捗状況を報告する中間発表がある。描いている進捗状況を見せ合うのは、学生にとってはプレッシャーに感じることだろう。

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