心理占星術研究家 鏡リュウジ×料理研究家リュウジ 特別対談 「ホモサピエンスは占いをして料理をする動物」
「本当の自分とは? 自分の運命とは?」
どんなにテクノロジーや科学が発達しても、自らの存在意義や不確かな未来を知りたいと思う欲望から人類が解放されることはないーー。21世紀がスタートして20年経つ現在も、我々は「占い」に惹かれ、そして興じている。
9月26日、英国でロングセラーとなっている名著『月と太陽でわかる性格事典』が、およそ20年ぶりに増補改訂版として再び日本で出版された。著者は英国の占星術界で最高峰の権威であるチャールズ&スージー・ハーヴェイ夫妻。月の12星座と太陽の12星座、即ち12×12=144通りの性格分析で、世界中の読者に自分自身を深く知るヒントを示した1冊だ。
待望の再販にあたって監修を務めたのは、約20年前の邦訳と同じく心理占星術研究家の鏡リュウジ。本書はなぜ時代を超えて読み継がれているのか。そして占いとの正しい向き合い方とは。
リアルサウンド ブックでは、著者の希望により料理家/YouTuberのリュウジとの対談を実現。意外に思える組み合わせだが、もともと彼らには親交があるのだという。占いと料理ーー異なる領域を探求しながら、同じ名を持つ、不思議な関係の両者によるスペシャル対談をお届けする。(小池直也/メイン写真:左、鏡リュウジ。右、リュウジ)
ふたりの出会いはTwitterで
――おふたりは以前から親交があったそうですが、知り合ったきっかけは何だったのでしょう?鏡:Twitterですね。同じカタカナのリュウジなので、よく間違えられていたのがきっかけです。
リュウジ:今も間違えられます。鏡さんが料理をしていると思っている方もいて(笑)。
鏡:カタカナの“リュウジ”を見ると、一定の年齢層以上の人は僕だと思ってしまうみたいですね。エゴサーチをする中で、たまたまリュウジさんを発見しました。それから占いメディア「ザッパラス」のイベントに参加してほしいと、僕からDMさせてもらったんです。
リュウジ:そうでしたね。料理家として活動する上での名前を考えていた時に、本名の竜士だと字面がいかついなと思ったんです。悩んでいたら友達から「占い師の鏡リュウジって知ってる? 覚えやすいから“リュウジ”にしなよ」とアドバイスをもらって、この名前になりました。
鏡:僕の本名は服部彰浩なので筆名とは全然違うんですけれど、語感が好きで30年以上この名前を使っています。まさに“リュウジ”は漢字にすると、どうしてもVシネマの俳優みたいになってしまう(笑)。
リュウジ:そう! 任侠っぽくなるんですよ。
鏡:僕も表記はかなり迷ったんですけれど、原稿の締切もあったので、仕方なくカタカナで出したんです。でもこれが結果的に正解で、雑誌の中吊り広告とかで見た時に言葉より字面で人々に覚えていただけたなと。
リュウジ:僕のなかで“リュウジ”は鏡さんですから。鏡さんがカタカナで名乗っていなければ、いまの僕は存在していないかもしれません。
この本には自分のことが書かれている
ーーおふたりは出会うべくして出会ったのですね。さて『月と太陽でわかる性格事典』は1994年に出版され、2003年に邦訳として日本で発売されています。占い本の名著と評されている一冊ですが、鏡さんにとってはどんな本ですか。
鏡:思い入れのある本のひとつです。昔は占星術の情報が日本で手に入りにくく、大学時代からイギリスの占星術協会に通っていました。当時の会長が本の著者である故チャールズ・ハーヴェイ先生でした。素晴らしい英国紳士でインテリジェントな学者です。この業界はとくに口さがないのですが(笑)、チャールズ先生を悪く言う人はただの一人も見たことがありません。身を削って占星術に尽くされた方だと思います。英国占星術協会では優れた占星術家に授与する賞を設けているのですが、その名前を「チャールズ・ハーヴェイ賞」として、氏の功績を残しています。ただ、業界のためにエネルギーを削がれていたせいか、主著と呼べる本がないし大学での職もなかった。この『月と太陽でわかる性格事典』は先生の業績の中ではポップなものですが、先生の著書を何とか出版したいなと思いまして、2003年に邦訳したところ、それなりに売れて評価もしていただきました。でもしばらくして品切れになり、版元の都合もあって宙に浮いていたのですが、辰巳出版からお声がけいただき、20年越しの増補改訂版として出版できることになりました。
――「増補改訂版」でグレードアップしたのはどの部分でしょうか。
鏡:周期表や言葉遣い、ジェンダーに関する解説、著名人の入れ替えが主なアップデートです。それから原著にないキャッチフレーズは僕が付けました。これがあるとすぐに理解できてキャッチーになるかなと。とはいえ内容は、ほぼ変わっていません。それだけ普遍性のある内容なんです。
――月星座の概念があることで、いわゆる12パターンの星座占いとは解像度が各段に違います。これについて改めて解説していただきたいです。
リュウジ:僕も星座に太陽以外のものがあるとは知りませんでした。
鏡:多くの人が知っている自分の星座は、生まれた時の太陽の位置を元にしているんです。でも詳細に見るには太陽のほかに金星、火星など十数個の天体の位置を調べるのが正式。とくに月は欠かせません。ただ。誕生日だけでわかる太陽星座に比べ、月星座が広まらなかった理由はその詳細さ故でしょう。でも今になって、女性たちの間で広まってきています。増補版では周期表にページを割きましたが、かなりの分量になるので、女性誌連載だとこんなの掲載不可能です(笑)。今ではネットで調べられるので載せるか迷いましたが、本だからできることだと考えて収録することに決めました。
リュウジ:だからこの対談の前に、僕の生まれた時間を聞かれたんですね。この本が一冊あれば完結できるので、個人的には入れてくれてよかったです。
鏡:太陽は意識的に生きている自分で、月は本能的であったり酔っぱらっている時の自分みたいな側面なんです。公と私の両面のコントラストが書いてあるので面白いんですよね。人間というのは色々な側面があって、そもそも矛盾した存在なんです。
本来の詳細なホロスコープの判断を本でやるのは難しいですが、月星座を加えただけで、太陽だけの星座占いより12倍詳しく診断できるんです。この『月と太陽でわかる性格事典』は本当によくできていて、イギリスのプロ占星術師も密かにカンニングぺーパーとして使っていた本なんです(笑)。
――それほど当時としては画期的な本だったと。
鏡:とはいえ太陽と月の組み合わせを見る方法は100年くらいの伝統があります。尊敬されているチャールズ&スージー・ハーヴェイ夫妻が難しい内容でなく、ポップな本を作ったということが革新的だったんです。だからこそ、プロたちも夢中になりました。
リュウジ:最初は難しい本なのかなと思ったのですが、これは面白いです。友達と飲みながら話す時とかに盛り上がりそうですね。
鏡:その場で占えるから、話のネタになる本ですね。20年前に出た時も色々なバーに「話題に困ったらこれを」と置いてきてました(笑)。
リュウジ:僕自身は本を全然読まないんです。人生で読破したのは、読書感想文で取り上げたヴィクトル・ユーゴー『ああ無常(レ・ミゼラブル)』と片山恭一『世界の中心で、愛をさけぶ』、乾くるみ『イニシエーション・ラブ』くらいで(笑)。でも、この本には自分のことが書かれているから、つい読んでしまいます。