今夏最も泣ける映画『今夜、世界からこの恋が消えても』は原作小説も落涙必至 スピンオフ作品も楽しもう

 たとえ紙の上やネットの中に記録された情報に過ぎなくても、自分と関わりのあることに人は想像力が働いて、感情を大きく刺激されてしまう。そうした感情を心の中に押し込めようとして押し込められず、溢れ出る様を目の当たりにして、人は忘れることの難しさであり、忘れられないことの苦しさを知って涙ぐむ。

 小説ではこのあたりを淡々と描写しているが、映画は泉を演じる古川琴音が渾身の演技で苦しい胸の内をうかがわせる※。映画では松本穂香が演じた透の姉も、泉と同じ種類の決断を見せてくれて、同じように心をグッとさせる。このあたり、映画を見て小説を読むと、シーンが浮かんで自然と泣けてくるだろう。

 映画で泉に関心を持った人は、一条岬によるスピンオフ小説『今夜、世界からこの涙が消えても』(メディアワークス文庫)を読むと良いだろう。消せる記録とは違って消せない記憶をしっかりと持っている泉が、透と真織の日々をどのように眺め、何を感じていたかが分かって、その時の決断がどれだけ痛いものだったかが、改めて浮かんでくるはずだ。

 三木孝浩監督は、『今夜、世界からこの恋が消えても』に続いて、デボラ・インストールによる『ロボット・イン・ザ・ガーデン』(小学館文庫)を原作にした『TANG タング』が公開となり、さらに経済小説の第一人者、池井戸潤の小説を映画化した『アキラとあきら』も公開となる。青春ラブストーリー映画の第一人者が取り上げた、ハートウォーミングな世界とシビアな企業社会が小説ではどのように描かれているか。映画を見て原作を読んで比べてみるのも面白そうだ。

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