アニメ&映画化で話題のSF版人魚姫『バブル』、ノベライズの仕上がりは? 『響け!ユーフォニアム』の武田綾乃が深めた世界観

『バブル』ノベライズ版の魅力

 種族の壁を越えて命がけの恋に挑む「人魚姫」の物語が、崩壊した東京を舞台にしたアニメーションに形を変えて登場した。

 『進撃の巨人』の荒木哲郎が監督を務め、『魔法少女まどか☆マギカ』の虚淵玄が脚本を手がけた『バブル』として、4月28日にNetflixから配信となり、5月13日には劇場映画として公開される。このアニメを『響け!ユーフォニアム』の武田綾乃が『バブル』(集英社文庫)としてノベライズ。映像よりも深く設定やキャラクターの内面に踏み込んでいて、“SF版人魚姫”として驚くような恋の行方を見せてくれる。

 5年前に突如、空から降って来た泡〈バブル〉によって東京は水没し、巨大なドーム状の「壁泡」によって包まれた。ドーム内では重力に異常が起こり、崩壊したビルの一部や車などが、残った泡〈バブル〉とともに空中を漂うようになっていた。そんな東京に残った若者たちが始めたのがバトルクールというスポーツ。出場者はスタート地点から倒壊したビルや浮かぶがれき、そして〈バブル〉の上を飛び回って進み、ゴール地点にあるフラッグを奪い合う。

 パルクールというスポーツがある。街中を壁でも堀でも避けずによじ登り、乗り越えて走り抜けていく一種の障害物走。映画の上映前にかかる「映画泥棒」のショートフィルムで、カメラ男が見せる走りっぷりがそれだと言われれば、映画好きならイメージを浮かべられるだろう。バトルクールは崩壊した東京に発生した異常を利用した、パルクールの発展系とも言えるスポーツだ。

 『バブル』という作品は、このバトルクールに参加しているヒビキという少年が、見知らぬ少女と出会うことで本格的なストーリーへと進んでいく。「壁泡」の中に残っている若者たちと同様に、ヒビキも5年前の厄災によって家族を失って行く場所がなく、誘われるようにしてバトルクールのチーム「ブルーブレイズ」に加わった。

 そのヒビキがある日、訳あって出向いた東京タワーのそばで出合ったのが、後にウタと名付けるひとりの少女。髪の色が奇妙だったり服装がちぐはぐだったりする上に、まともに話すこともできない少女はいったい何者か。興を削がないよう、「人魚姫」のモチーフがSF仕立ててで取り込まれたものといった程度に紹介はとどめておく。見終えた時にその意味が分かり、“悲恋”の行方が気になるはずだ。

 アニメ版『バブル』では、ヒビキたちのバトルクールのプレイぶりを、縦横に移動するカメラワークでしっかりととらえて、スピーディーで躍動感のある映像にして表現している。第3期までの『進撃の巨人』を手がけた荒木哲郎監督と、WIT STUDIOが制作しただけあって、調査兵団が立体起動装置を使って屋根の上を飛び回り、巨人に挑んだシーンが思い浮かぶ迫力だ。

 小説版『バブル』でも、踏み外せば水のたまった下へと落ちて、重力異常が作る渦へと引きずり込まれてしまうスリリングな状況の中で、出場者たちが思考をめぐらせ走り続ける様子を言葉によって描いている。恐怖であり嫉妬でありといった感情の描写は小説が得意とするところ。それが、『響け!ユーフォニアム』で高校の吹奏楽部に入った少女たちの想いを、えぐるように綴ってみせた武田綾乃の筆によるものなら、伝わる感情の生々しさもうかがえるというものだ。

 「壁泡」の中でバトルクールに参加している若者たちが、野菜を育て鶏を飼って自給自足しながら暮らしている日々の大変さも、小説版だとより強く響いていくる。それ以上に、どうして地球に泡が降ったのか、そして東京だけがどうして今も「壁泡」に閉ざされているのかも詳しく説明してあり、アニメを観ただけでは分かりづらかった部分を理解できる。すでにアニメを観た人も、これからアニメを観る人も読んで損はない小説だ。

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