『コンビニ人間』村田沙耶香が描く、予測不能な哲学的カルト詐欺ーー最新短篇集『信仰』の不思議な余韻

村田沙耶香『信仰』レビュー

 何が善で何が悪なのか、読者の自分はそれを判断できるほど正しい人間なのか。ミステリでもないのに、何もかもが信用ならなくなってくる。本書はそんな奇妙な感覚を読み手にもたらす「信仰」を含む、6つの短篇とエッセイ2篇が収録されている。

 学校の成績や収入を基にした65歳時点の生存率で国民がランク付けされたり(「生存」)、同じ高さ・同じ形・同じ白色の建物の並ぶ「均一」という名の街が誕生していたり(「カルチャーショック」)、人類の滅亡した地球でロボットと宇宙人が協力して展覧会を開いたり(「最後の展覧会」)、ユニークではあるもののバラ色とは言えなさそうな未来が描かれることも多い。それでもネガティブな話に映らないのは、それぞれの作品世界でしか生まれ得ない様々な形の救いであったり、ハッピーエンドともバッドエンドとも異なる不思議な余韻を残す結末が用意されているからだ。

 こうした多様な世界を描く想像力の源泉を2篇のエッセイで窺い知ることもできて、村田作品の入門編としてうってつけの一冊。定価1200円+税(電子書籍では税込1300円)は〈原価いくら?〉とは言わせない、お値打ち価格だ。

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