『僕のヒーローアカデミア』が問いかける現代の難題ーー不寛容な社会とどう向き合う?
グレーゾーンのない社会は脆い
「世界のほとんどはグレーで不安や怒りが渦巻いてる。だからこそ、そこに手を差し伸べなきゃ」とデクは言う。
ヒーローにもそれぞれ過去があり、時には罪もある。ヴィランにも時には情があり、仲間を思いやる優しさもある。トゥワイスとトガヒミコの関係のように。
しかし、不安に駆られた世間は、僅かな曇りすら認められなくなる。不安は人の心を弱くするからだ。
現実の社会もどんどんグレーな領域を消そうとしている。安心・安全を求めることは絶対的に正しいことで、同義に背いた行為は、たとえ自分に被害がなくともなぜか許せず、熱心に断罪する。シロとクロをはっきりさせたい心象はますます膨れ上がっている。
しかし本来、ある種の暴力性を伴わざるを得ないヒーロー活動は、グレーな領域なくしては許容ができないものではないか。暴力はいけないと完全にはっきりさせてしまえば、ヒーローのふるう暴力も駄目だとなる。
生まれてこのかた、一度も悪いことをしたことのない人間はいないだろう。ヒーローとて、後ろ暗い側面を全く持たない人などいないはずだ。それを認めることのできない社会はやはり脆いのだ。
ホークスは「俺たちはこれから、敵(ヴィラン)だけじゃなく、世間(そと)とも戦うことになるので」と言う。この世間との戦いとも決着がつかない限り、『ヒロアカ』の物語は終われない。ただ、敵を実力で打ちのめせばよいわけではないのだ。
いかにヒーローと市民が相互に信頼できるようになるのか、という問いに答えを見出さねば、この物語は終われない。最終章でこの難しい問いにどんな答えを出すのか、クライマックスまで見守りたい。