自我(エゴ)・努力・勝利ーーアニメ化迫る『ブルーロック』が少年漫画として“破格”な理由

『ブルーロック』はなぜ“破格”の少年漫画なのか

※本稿には、『ブルーロック』(原作・金城宗幸/漫画・ノ村優介/講談社)の内容について触れている箇所がございます。同作を未読の方はご注意ください。(筆者)

 人気サッカー漫画、『ブルーロック』(原作・金城宗幸/漫画・ノ村優介)のテレビアニメが、2022年10月から放送開始される(テレビ朝日系)。また現在、同作の単行本のシリーズ累計発行部数は830万部を突破しており、(すでに充分ブレイクしているといっていいと思うが)この数字は、テレビアニメが始まる秋から冬にかけて、ますます増えていくことだろう。

 そこで本稿では、あらためてこの漫画の人気の秘密に迫ってみたい。

自我(エゴ)・努力・勝利

 『ブルーロック』の主人公は、高校2年生の潔世一(いさぎ・よいち)。全国高校サッカー選手権大会の県大会で、決勝戦まで勝ち進むほどの実力を持ってはいるが(ポジションはフォワード)、残り時間あとわずかという段階で痛恨のミスを犯してしまう。自らシュートを打てば同点ゴールを決められたかもしれないのに、あえて、より得点の可能性が高いフリーの位置にいた味方選手にパスを出してしまったのだ。結果、味方選手はシュートを外し、チームは(だめ押しの1点をさらに獲られて)負けてしまう。

 そんな世一のもとに1通の手紙が届く。差出人は「日本フットボール連合」だったが、彼が「強化指定選手」のひとりに選ばれたということの他は、詳細は何も書かれていない。おそるおそる説明会場に向かうと、そこには「優秀な18歳以下のストライカー」が300名集められており、突然壇上に現れた、絵心甚八(えご・じんぱち)なる謎めいた男のスピーチが始まるのだった。

 絵心いわく、「日本サッカーが 世界一になるために 必要なのはただひとつ――…/革命的なストライカーの誕生です/俺はここにいる300人の中から 世界一のストライカーを創る実験をする」。そして、そのための施設の名が、(タイトルにもなっている)「青い監獄(ブルーロック)」だというのである。

 物語はそこから一気に加速し、スポ根漫画というよりはいわゆるデスゲーム物としての面白さで読み手を引っ張っていくことになる。そう、何よりもストライカーとしてのエゴを重視する絵心は、(本心は別にあるのかもしれないが)表面上は、299人を切り捨てて1人を選ぶといっており、必然的に物語は“生き残り”をかけたサバイバル物としての色が強まっていくのだ。

 つまり、この『ブルーロック』という作品では、従来の「少年漫画のヒットの条件」といわれている、「友情・努力・勝利」のうち、「友情」の要素は最初から除外されているのである。まずはその部分が、スポーツ漫画としては圧倒的に新しかったといえるだろう(わかりやすくいえば、この漫画で描かれているのは、「自我(エゴ)・努力・勝利」だ)。

 むろん、ブルーロックで切磋琢磨する日々の中で、世一と数々の異才たちとの間に、信頼感のようなものは芽生える。その信頼感を“友情”といってもいいかもしれない。しかし、それはあくまでも、“自分の能力(エゴ)を活かしてくれる人間”に対する信頼感であり、これまでのスポーツ漫画の多くが描いてきたような、“仲間を信じることでさらに大きな力を生み出せる”という友情の形とはだいぶ異なるといってよかろう。

 なんにせよ、こうした、相手をどこまで信じていいのかわからないという(デスゲーム物やギャンブル物ではよく描かれている)緊張感のある友情の形が、いままでのスポーツ漫画ではほとんど見られなかった不思議な魅力を醸し出しているのだと私は思う。

主人公を食いかねない魅力的な脇役たち

 そしてもうひとつ。この漫画がいま受けている最大の要因は、間違いなく、主役級の個性的なキャラクターを惜しげもなく何人も作中に投入している点にあるだろう。実際、出てくるのは、世一の“相棒”にしてトリッキーなプレイヤー・蜂楽廻、俊足の“韋駄天”千切豹馬、“スーパー・ヒーロー”國神錬介、常識を超えた超人・凪誠士郎、絶対的エース・糸師凛、“王様”馬狼照英、“悪魔”士道龍聖などなど――いずれも主人公を食いかねない魅力を持ったキャラクターばかりだ。

 ちなみに本来、少年漫画というジャンルは、強烈な個性を持ったひとりの主人公の成長を描いていくべきものではある。だがその一方で、チーム戦やトーナメント戦の面白さで見せる(読ませる)集団劇の流れがあるのも事実だ。

 当然、後者には、敵味方を問わない複数の個性的なキャラクターが登場し、それぞれにファンがつき(今風のいい方をさせてもらえば、何人もの“推しのキャラ”が生まれ)、それが結果的に、作品全体の人気の底上げにもつながっていく。

 なお、この種の漫画のルーツは、山田風太郎の「忍法帖シリーズ」だといわれている(山田風太郎自身は、「忍法帖」は『水滸伝』を下敷きにしているといっているが、“源流”を辿っていけばキリがないのでそれ以前は省略)。その後、横山光輝、白土三平らの忍者漫画や石ノ森章太郎『サイボーグ009』などを経て、「週刊少年ジャンプ」連載の車田正美『リングにかけろ』が大ヒット。以後、同じ車田作品である『風魔の小次郎』、『聖闘士星矢』の2作はいうまでもなく、『キン肉マン』(ゆでたまご)、『DRAGON BALL』(鳥山明)、『幽☆遊☆白書』(冨樫義博)、「ジョジョ」シリーズ(荒木飛呂彦)など、数々のチーム戦・トーナメント戦のヒット作が80年代から90年代初頭にかけての「少年ジャンプ」で生み出され、それらは結果的に少年漫画の――とりわけバトル漫画やスポーツ漫画のひとつの“型(パターン)”を作り上げていく(この種の近年最大のヒット作として、「ジャンプ」系の作品では、吾峠呼世晴『鬼滅の刃』と芥見下々『呪術廻戦』、また、『ブルーロック』と同じ「少年マガジン」連載作でいえば、和久井健『東京卍リベンジャーズ』などが挙げられるだろう)。

 むろん、『ブルーロック』にもそうした、複数の個性的なキャラクターが出てくるチーム戦・トーナメント戦ならではの魅力(面白さ)があり、その点では、この作品は極めてオーソドックスな少年漫画であるといえなくもない。ただし、魅力的な脇役が何人出てこようとも、あくまでも物語の中心は主人公であるべきであり、その主人公のキャラが立っていない漫画は駄作である、ということは念のため書いておこう。

 そういう意味では、この漫画の面白さはやはり潔世一の魅力――すなわち、主人公のエゴの大きさにかかっているのだ。

(注・以下、最新19巻と単行本未収録分のストーリーに触れています)

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