一見好対照なサッカー漫画『アオアシ』と『ブルーロック』をつなぐ、オシム監督の教え 「考えて走る」ことの大切さを読む
Jリーグのクラブユースで学びながら選手が成長していく小林有吾の『アオアシ』と、監獄のような場所で300人のフォワードが競い合う金城宗幸原作/ノ村優介作画の『ブルーロック』ーーアニメ化も決まった2つのサッカー漫画が描く世界は正反対のようで、どちらもプレイについて極限まで考えさせ、“サッカー脳”を鍛える効能を持った作品だ。
「考えて走る」。ジェフユナイテッド市原・千葉や日本代表で指揮を執り、5月1日に亡くなったイビチャ・オシム監督が語ったとされる数々の名言の中でも、とりわけ引き合いに出されるこの言葉が、どれだけサッカーで重要なのかが『アオアシ』にも『ブルーロック』にも描かれている。
愛媛の中学校でサッカーをしていた青井葦人が出会った中年男の福田達也は、実はスペインリーグでも活躍した元天才プレイヤーで、今はJリーグの東京シティ・エスペリオンFCで高校生年代が所属するユースチームの監督をしていた。福田は葦人が試合で見せたある才能に興味を持ち、エスペリオンユースのセレクション(入団試験)に呼び寄せる。
そこで葦人たちテスト生の相手を務めたのが、同年代では敵なしと言われるエスペリオンユースの若手たち。圧巻のプレイぶりにテスト生たちは自信を打ち砕かれるが、葦人は持ち前の折れない心と才能の片鱗を見せることでセレクションを突破し、エスペリオンユースへの入団を果たす。そこで葦人を待っていたのは、サッカーのとてつもない奥深さだったーー。
以上が『アオアシ』という作品の冒頭だ。秘められた才能を見出され、栄光へのステップを駆け上がっていくヒーロー漫画の典型のように見えるが、ここまででの物語でも葦人は幾つもの壁にぶち当たり、突破するために脳を振り絞って「考える」ことを求められている。
中学のゲームでは、ただ点をとることだけに集中できた。周りが葦人にボールを集めてくれて、相手も簡単に突破できた。セレクションの一次試験では、ミニゲームでボールを持ってもすぐに囲まれて奪われる。それでもボールを持とうとする葦人に誰もボールを回さなくなる。
良いところをまるで見せられないままミニゲームが終わろうとしていた時、葦人は自分が何をすべきかを考え、敵を引き寄せ開いたスペースにパスを出して、チームメイトの得点をアシストする。そのプレイを認められ、進んだ最終試験でユースチームを相手にした時も、入団を果たして実戦に臨んだ時も、葦人はゲームの中で幾つもの発見をする。
ボールを持っていない時(オフ・ザ・ボール)の動きによって、相手の得点を阻止したり、味方の得点に繋げたりするプレイに関われること。自分が味方にどこにいて欲しいかを求めるだけでなく、味方が自分にいて欲しい場所に動くこと。トラップをする時も、ボールをただ足元に落とすだけでなく、次にどこにボールを動かしたいかを考えて、蹴りやすい場所に落とすこと。
ユースより下のジュニアユースやサッカーの名門校でプレイしていれば、教わったり覚えたりしていることを、愛媛でただ点を取ることだけに熱中していた葦人はまったく知らなかった。福田と出会い、エスペリオンユースに入ってサッカーエリートたちと触れあう中で学んだ「考える」プレイに、持ち前の才能をミックスさせることで葦人はぐんぐんと成長していく。
そんな葦人を通して、読者はひとつひとつのプレイが持つ意味を知り、オシム監督が言った「考えて走る」大切さに気づくことができるのだ。