日本各地のサッカークラブの存在理由とは? 『フットボール風土記』から考える
2021年元旦、第100回目となる天皇杯JFA全日本サッカー選手権大会(以下天皇杯)決勝が新国立競技場で行われる。今大会は新型コロナの影響で大会方式が変更され、1回戦から5回戦まではアマチュアチームのみの参加となりJクラブの参加は準々決勝からとなった。天皇杯はプロチームだけでなくアマチュアチームも(日本サッカー協会の第1種登録があれば)予選から参加可能なオープントーナメントだが、第100回大会のベスト8には初出場となる福山シティFC(広島県1部リーグ所属)が勝ち残っている。
日本サッカーの裾野は広い。 Jリーグとして知られるカテゴリーはJ1をトップにJ2、J3と続き、その下にJFL(日本フットボールリーグ)がある。その下には全国9地域に分かれた地域リーグ(北海道、東北、関東、北信越、東海、関西、中国、四国、九州)、さらにその下に46の都府県リーグと北海道の4つのブロックリーグが存在する。 福山シティFCはJリーグの下の地域リーグのさらに下、都府県リーグの1部に所属するチームなのだ。
こうして俯瞰して眺めると日本サッカーの裾野の広さと、どんなに小さなクラブでもトップであるJリーグへの道が険しくとも繋がっていると約束されている環境には大きな夢があることだと感じる。
そんな日本サッカーピラミッドの裾野を長年見つめ続けた宇都宮徹壱氏の最新作『フットボール風土記』は、北は北海道から南は宮崎までそれぞれの土地に根を張る、または根を張ろうとするサッカークラブを2016年から2020年のシーズンにわたって取材した一冊だ。
日本サッカーの裾野には社会人主体の企業チームもあれば、Jリーグを目指すクラブチームなどがひしめき合っている。例えば先述した福山シティFCは2017年にできたばかりのチームだが、新型コロナ禍で存続の危機に遭いながらも、「令和的戦略」で解散の危機を回避した。また福島県1部リーグ(本書掲載時。現在はJFL)のいわきFCは県1部リーグで圧倒的な強さを誇っており地元の人気も高く、近代的なクラブハウスや人工芝のグラウンドなどチーム環境が整っている。
片やデコボコの土のグラウンドの上で2000円ボールで練習し、一度はJFLに昇格するも、親会社の不祥事で岡山県リーグから再出発し現在は中国リーグで戦う岡山県の三菱水島FCのような企業チームもある。
全国で唯一JクラブがないJ空白県(本書時点:テゲバジャーロは2021年にJ3昇格)である宮崎県では企業チームのホンダロックSCとJリーグを目指すテゲバジャーロ宮崎という複雑に絡み合った2チームがJFLでダービーマッチを戦う。そのJFLで戦う四国のFC今治(2020年からJ3)は元日本代表監督の岡田武史氏が代表となり、日本のトップチームを目指し、またその先の世界までを見据えている。
Jリーグを目指すチームや企業チームとして存続自体が目標など、様々なモチベーションのチームの姿を本書から知ることになるが、書名となっている“風土記”(地方の歴史や文物を記した地誌のことを指す)が表す通り、他所からは見えなかった地域特有の地元感情も見逃せない。