“お店&名探偵”のジャンル引っ張る「ビブリア古書堂」最新刊が週間ラノベランキング1位 後続シリーズも書店賑わす

 探偵役が栞子から娘の扉子へと代替わりしても、本に関する濃い知識を与えてくれるエピソードを、変わりなく紡ぎ続ける三上延の「ビブリア古書堂」シリーズ(メディアワークス文庫)。Rakutenブックスのライトノベル週間ランキング(4月4日~4月10日)で、最新刊『ビブリア古書堂の事件手帖Ⅲ ~扉子と虚ろな夢~』が1位となって、文庫でのコージーミステリー人気を引っ張るトップランナーとしての実力を見せてくれた。


 今回、取り上げられる本は主に3冊。といっても1冊目は映画パンフレット『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』で、その希少的な価値というよりは、古書の販売にまつわるトラブルを描いている点が面白い。古書店が集まってデパートで開かれていた即売で、パンフレットに落書きがされていないか何度も聞いてくる客がいたり、買った古書に蔵書票が貼ってあるとしつこくクレームを付けてくる客がいたりした。

 表面的には普通の光景だが、その裏側にある悪意が混じっていたことを扉子が見事に見破る。その真相とは? 「なるほど!」と思えること請け負いだが、マネをするのは厳禁で。

 『通俗書簡文』という、樋口一葉の生前唯一の著作に関する知識が学べるエピソードでは、売り場に出されていた樋口一葉関連の著作に珍しい紙幣がはさまっていた謎が繰り出される。そして小栗虫太郎『黒死館殺人事件』、中井英夫『虚無への供物』と並んで日本三大奇書に上げられる夢野久作『ドグラ・マグラ』にまつわるエピソードも含めた3つエピソードを貫いて、ひとりの古書店員が遺した1000冊の本を巡る物語が描かれていく。

 発端は、ビブリア古書堂を切り盛りする店主の栞子を、樋口佳穂という女性が訪ねて来たこと。古書店で働いていた元夫の杉尾康明が死に、その蔵書1000冊が古書店主の義父によって処分されようとしていると知って、古書店仲間の栞子を通して止めるように話してくれないかと持ちかける。

 店主の杉尾正臣は、康明と佳穂の子で自分にとっては孫の恭一郎に蔵書を相続するか尋ね、必要ないと言質を取った上で、即売会で売ろうとしていた。ただ、急ぎすぎる理由が分からない。一方で、佳穂がとてつもなく貴重な蔵書がある訳でもない元夫の蔵書を、必死に取り戻そうとしている姿勢にも奇妙なところがあった。

 扉子や栞子の活躍もあって明らかにされた、その疑問に対する答えのひとつが、本によって人はどれだけ影響を受けるのか、といった問題だ。本好きを自認し、本から知識や経験を得ている人にとって、いろいろと響くところがあるだろう。

 「ビブリア古書堂」シリーズのヒットで、お店を舞台に店主が知識や洞察力を駆使して日常の謎を解き明かしていくミステリーが、続々と登場してある種のジャンルを形成していることは、書店の文庫コーナーに並ぶ本を見ればよく分かる。累計235万部に及ぶ岡崎琢磨「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズ(宝島社文庫)は、京都市の中京区に店を構える純喫茶タレーランで働くバリスタの切間美星が、客の会話や状況から推理して問題を解決へと導く。

 3月18日発売の最新刊『珈琲店タレーランの事件簿7 悲しみの底に角砂糖を沈めて』では、新聞社で読書推進事業に携わる女性社員が担当したビブリオバトルで起こった事件の真相を、店内でのやりとりから推理して見事に言い当てる。また、美星がまだ高校生だった時に、合唱コンクールの練習で、ひとり歌おうとしなかった同級生の事情を言われなくても察してのける。本の知識を土台に本に関する謎を解き明かす栞子より、美星の方が探偵としての幅は広そうだ。

 シリーズ200万部という、こちらもベストセラーの望月麻衣「京都寺町三条のホームズ」シリーズ(双葉文庫)は、『京都寺町三条のホームズ0 旅のはじまり』が3月13日に刊行。古書ならぬ骨董の店「蔵」で働く家頭清隆が、若いながらも骨董に関する豊富な知識で謎を解き明かしていくシリーズで、最新刊はそのガイドブックとして、舞台となっている京都や近郊の観光スポットを紹介しつつ、清隆と「蔵」でアルバイトをしている高校生の真城葵との出会いを、アニメオリジナルバージョンで改めて描いている。

 4月14日には『京都寺町三条のホームズ18 お嬢様のミッション』も刊行となったが、ライトノベル扱いされていないため、「珈琲店タレーラン」シリーズともどもRakutenブックスではライトノベルのランキングに顔は出していない。文庫の週間ランキング(4月4日~4月10日)では、『京都寺町三条のホームズ18』が27位、『京都寺町三条のホームズ0』が88位、『珈琲店タレーランの事件簿7』が50位と健闘している。「ビブリア古書堂」が誘ったコージーミステリーへの関心は、続く幾つもの人気シリーズを得て一段の盛り上がりを見せている。

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