アニメ&映画化で話題のSF版人魚姫『バブル』、ノベライズの仕上がりは? 『響け!ユーフォニアム』の武田綾乃が深めた世界観

『バブル』ノベライズ版の魅力

 「人魚姫」のモチーフは、3月に発売となったライトノベル作品『海姫マレ』(KAエスマ文庫)の方でも使われている。KAエスマ文庫とは、『響け!ユーフォニアム』や『バイオレット・エヴァーガーデン』といったアニメを制作してきた京都アニメーションが、小説を募って文庫として刊行して来たレーベル。『海姫マレ』はその創刊10周年記念作で、『小林さんちのメイドラゴン』などで脚本を書いた西川昌志が執筆した。

 人魚や海の生き物たちが暮らす海中の国・ニライカナイに姫として生まれた人魚のマレは、海を汚す人間を懲らしめたいと思い、そのために人間に奪われたという「神の矢」を取り戻そうとして、魔法で人間のような脚を作り三高島へと上陸した。王子さまに恋をして人間となった童話の人魚姫とは正反対の動機。海洋汚染が問題視される現代らしい設定とも言える。

 マレは三高島で大里天海という少年と知り合い、天海が暮らす親戚の家に居候しながら「神の矢」を探すうちに、人間の中にも自然を愛する人たちがいることを知る。そこに発生した大問題。過疎化する三高島は、このままでは朽ちていくより他にない。だったら開発してでも生き残ろうと画策する勢力がいて、伝統を破壊してまで生き残るべきかといった勢力と対立する。

 そうした騒動に巻き込まれ、囚われたマレを島で出合った仲間たちが助けに向かうシーンは、湯浅政明監督の映画『夜明け告げるルーのうた』で閉じ込められた人魚のルーを、カイという人間の少年が救おうとするシーンに重なる。伝統を蔑ろにすることで起こる厄災に、人間も人魚もともに挑む展開も同様だが、その結果としてマレに何が起こるのか。読んで確かめて欲しい。

 モチーフがともに「人魚姫」ということで、『バブル』も『海姫マレ』も悲恋めいた結末へと向かいそうだが、実は「人魚姫」では王子との恋が成就せず、海の泡となって消えた人魚姫は、その後に風の精霊となって世界に幸せを運ぶ存在になる。悲恋だが悲劇では終わらないその結末がウタにもマレにももたらされるのかを想像しながら、小説のページを繰りアニメの展開を見届けたい。

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