『鎌倉殿の13人』で注目 鎌倉時代を舞台にしたファンタジー・伝記・ラノベが面白い

 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』がNHKで始まったことで、注目を集めている鎌倉時代や北条氏。ファンタジーや伝奇小説、ライトノベルにも鎌倉時代が舞台になったり、源氏や北条氏が出てきたりする作品があって、違った角度から大河ドラマの舞台への関心を膨らませてくれる。

 人間が放つ怨みや邪念が集った“怨穢(おんえ)”が、さらに凝り固まって“凝(ぎょう)”となったものに取り憑かれると、人間も神様すらも邪気を振りまき悪さをするようになる。そんな怨穢や凝を祓って歩く遠谷(おちだに)の薬売りを主人公にしたファンタジーが、真園めぐみ『やおよろず神異録』(東京創元社)だ。

 主人公の真人(まひと)も遠谷の薬売りのひとりで、久々に立ち寄った鎌倉で“流れ神”に居座られて結界を張られ、住人が追い出されてしまった屋敷を目にする。神様のことをよく知る遠谷の薬売りだけに、どうにもならないと思っていた真人だったが、そこに現れた若い男が手にした太刀を一閃すると結界が斬れ、中にいた“流れ神”も祓われた。

 男の名は北条時房。『鎌倉殿の13人』で小栗旬が演じている北条義時の弟だ。北条家は義時や時房の姉の政子が源頼朝の妻だったこともあり、権力の中心にあったはずだが、そんな家の男子が『呪術廻戦』で言う呪詛師のようなことをしていたのには訳があった。

 それこそが、『鎌倉殿の13人』でいずれ描かれる、頼朝の死後に敷かれた「十三人の合議制」の中で起こった、有力御家人たちによる権力闘争であり、金子大地が演じることになる頼家と、母方の実家である北条家との確執だ。真人が暮らす遠谷には“天佑”と呼ばれる太刀が祀られていて、それを頼家と親しい高坂景秀という御家人が、親友の颯(はやて)ともども奪っていく。

 天佑には時房が手にしていた太刀“天恵”と同じ力があって、鎌倉の地で景秀と時房が張り合うことになる。東京と京都の呪術高専による交流会が鎌倉時代に繰り広げられているようなものと言えば分かりやすいか。物語はそんな構図の中、神様が見えて会話もできる真人が、美しい姿をした朧月(ろうげつ)という名の流れ神とともに颯を追い、北条家と頼家との間でうごめく闇神(くらがみ)との対決へと向かっていく。

 そこには、天佑や天恵に命がけで精力を注ぎ込む巫女たちの悲運を変えようとする楓や真人のあがきがあり、我が子でありながら疎遠になってしまった頼家を思う政子の苦悩がありといった具合に、人間ドラマもたっぷりと仕込まれている。バトルの方も、死体に凝がとりついて生まれる鎌倉ゾンビとの戦いから、ラスボスの闇神を相手にした決戦まで多彩。大河ドラマから時代や人物に興味を持った人、伝奇バトルが好きな人、そして鎌倉時代が舞台の友情&ロマンスに触れたい人なら手に取って損はない作品だ。

 伝奇バトルといえば、「バチカン奇跡調査官」シリーズの藤木稟による「陰陽師 鬼一法眼」シリーズ(光文社)も、鎌倉時代を舞台に『鎌倉殿の13人』に登場するものとは違った頼朝や義時たちの姿に触れられる。主人公は陰陽師の鬼一法眼。マンガなどに登場する美形の陰陽師たちとは違って、名前以上に凶悪な面構えをしているが、腕は確かで頼朝を相手に怨みを晴らそうとする源義経の怨霊と対峙する。

 カッパ・ノベルズで出たシリーズの第3巻までが光文社文庫入りして、今も電子書籍で読めるが、『鎌倉殿の13人』でいずれ繰り広げられる、頼朝が死んだあとの政争が描かれるのは、カッパ・ノベルズ版の第4巻『陰陽師 鬼一法眼 ―切千役之巻』以降。シリーズ最終となる第7巻『陰陽師 鬼一法眼 ときじく之巻』では頼家の弟の実朝が鎌倉幕府三代将軍となっていて、史実にある悲劇的な運命へと向かうのを止めようと、鬼一法眼が力を振るう。鎌倉初期にどっぷりと浸らせてくれるシリーズだけに、ブームに乗って全巻復刊となって欲しいところだ。

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