『ゴールデンラズベリー』なぜ高い評価? 「今時の女性マンガ」のイメージ覆す作風に迫る

『ゴールデンラズベリー』の魅力

 映画関係者ならだれもが恐れる映画賞「ゴールデンラズベリー賞」をご存知だろうか? ブーイングを意味する「Razz」が語源で、その年の最低映画を決める賞となっている。

 そんな不名誉な賞と同じ名を持つ漫画『ゴールデンラズベリー』(持田あき)が、国内で権威ある祭典「第25回文化庁メディア芸術祭」のマンガ部門で大賞に輝いた。

“仕事が続かない男”と“恋が続かない女”

 主人公は、高学歴、高収入、高身長、と三拍子揃ったイケメンの北方啓介。けれど、その実態は、夢中になれるものが見つからず、転職を24回繰り返す“仕事が続かない男”であった。北方は一念発起して芸能プロダクションでマネージャーとして働くが、事務所が期待する大型新人にデビュー当日に逃げられてしまう。

 再び職迷子に陥った彼が出会ったのは、男性と付き合っては別れを繰り返す“恋が続かない女”の吉川塁。彼氏と別れようが、職場の取引先に怒鳴られようが決して動じない。彼女の凛とした美しさに魅了された北方は、その勢いで彼女を芸能プロダクションにスカウトする。

魅力は“続かない”2人を突き動かす原動力

 共通点は“続かない”こと。なんとも不安な共通点を持つ2人が、芸能界を舞台に仕事、そして恋愛に奔走していく『ゴールデンラズベリー』。贈賞理由として、漫画家・おざわゆき先生は、以下のように絶賛のコメントを寄せた。

テンポの良さと隙のないハッタリ、それに付随する高い画力。乗り心地の良いジェットコースターに、審査をしながらワクワクが止まらなかった。芸能界という華やかな業界ものにキラキラした美麗な男女、そこに「今時の女性マンガ」という判を押そうとする我々の価値観は一読で押し流されるだろう。
出典元:文化庁メディア芸術祭 - JAPAN MEDIA ARTS FESTIVAL

 もしストーリー性の高さについて言及するのであれば、その魅力は“続かない”2人を突き動かす原動力にあると思う。

 北方は塁をスカウトする際、こう告げる。「死ぬほど面白い仕事がしてみたい 君をスカウトさせてくれませんか」と。そんな北方の熱烈コールにも表情を崩さず、淡々としている塁。けれど、初めて誰かに本気で選ばれる経験をした彼女は、北方と仕事がしてみたい、面白いことがしてみたい、その一心で芸能界を入りを決意する。

 2人を突き動かすのは、好きなあの人の笑顔がみたい、褒められたい......といった従来のお仕事恋愛漫画で描かれてきた、うっとりするような甘い恋心ではなく、静かに燃える仕事への情熱だ。それによって描かれる、2人が少しずつ信頼を深めていく様子や、お互いの人間的成長は、回を追うごとに益々魅力的にうつり、引き込まれていく。

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