『僕のヒーローアカデミア』いよいよ大詰め! 自己犠牲を否定するヒーロー観を考察

『ヒロアカ』自己犠牲を否定するヒーロー観

 『僕のヒーローアカデミア』(集英社、以下『ヒロアカ』)の連載が、いよいよ大詰めを迎えている。

 堀越耕平が週刊少年ジャンプで連載している本作は、『スパイダーマン』や『バットマン』といったアメリカン・コミックスのテイストを、少年ジャンプが得意とする学園ドラマテイストのバトル漫画の世界にうまく落とし込んだヒーロー漫画だ。

 舞台は、“個性”と呼ばれる超常的な能力でヴィラン(敵)を取り締まるヒーローの仕事が、公的職務として定着している超人社会。主人公の少年・デク(緑谷出久)は、個性を持たない“無個性”の少年だったが、ナンバー1ヒーローのオールマイトから個性「ワン・フォー・オール」を譲り受け、新たな時代のヒーローとして活躍することになる。

 物語は、ヒーローの資格取得を目的とする雄英高校のヒーロー科に入学したデクがヒーロー科の仲間たちと切磋琢磨する中で成長していく中、社会の転覆を目論むヴィランとの戦いが壮大なスケールで展開される。

 31巻末からは「終章」と銘打たれており、死柄木弔が率いるヴィランとデクたちヒーローの最終決戦が進行している。

※以下、ネタバレあり。

 「ワン・フォー・オール」の個性を死柄木弔に奪われることを危惧したデクは、雄英高校から抜け出し、仲間たちを巻き込まずに戦うことを決意する。

 オールマイト、ホークス、ベストジーニスト、エンデヴァーといった一流ヒーローのサポートの元、街で暴れるヴィランを次々と倒していくデク。

 しかし警察は刑務所から脱獄したヴィランの対応に追われ街は無秩序状態となっていた。残された民間人が自警団化し、ヒーローの権威が失墜する中、それでもデクはヒーローとして戦い続けるのだが、責任感が強すぎるがゆえに余裕を失い、心を閉ざしていく。ついには師匠のオールマイトも拒絶して一人で戦おうと暴走していく。

 デクは、自己犠牲を厭わないキャラクターとして描かれており、制御できていない巨大な個性を発動させることで、指や腕に大怪我を追う場面が、繰り返し描かれてきた。それはヒーローとしては美点なのだが、その美点が悪い方向に向かっている不安が描かれたのが前巻までの展開だ。

 最新刊となる33巻では、そんなデクを連れ戻そうとするクラスメイトとデクがお互いの気持ちをぶつけ合う場面が描かれる。

 そこではっきりと打ち出されるのが『ヒロアカ』のヒーロー観だ。

 轟焦凍が「その責任俺たちにも分けてくれよ」と言い、蛙吹梅雨が「あなたがコミックのヒーローのようになるのなら」「A組(わたしたち)」「一人で架空(そっち)には行かせない」という姿が象徴的だが、孤高のヒーローによる自己犠牲を『ヒロアカ』は否定する。

 「一人で戦ってはいけない」というメッセージを『ヒロアカ』は繰り返し描いてきた。暴走した仲間をデクが引き止め、みんなで戦うという展開が、本作では繰り返し描かれてきたのだが、今回は逆に一人で突っ走って孤独になってしまったデクを仲間たちが連れ戻す展開となっている。

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